痛む胸、苦しい心


テグンと喧嘩をしたあの日。
あの日は過労と睡眠不足で倒れてしまっていたらしく、翌日目を覚ましたら不安そうに顔を覗き込むメンバーたちの顔があった。

起きなければ、と思っていたからなのか予定通りに起床し、周りの反対を押し切って詰め込みの練習に参加する。
けれどやはりまだ万全では無かったみたいで、わたしだけ少し早めに強制終了させられた。

けれどそれのお陰で翌日の練習には万全の体調で臨むことが出来、カムバックを控えた2週間前に久しぶりのウギョル撮影が入る。
ヒョンスンオッパと会うのは、テグンとあんな言い合いをした手前少しだけ会い辛い。



「おはよ、なまえ。」

「うわっ!?お、おはよう、ヒョンスニオッパ。…驚かさないでよ。」

「あはは。この前の仕返し。」



撮影現場となる場所へと先に到着したわたしは、ボーッとしながらヒョンスンオッパの到着を待つ。
すると急に後ろからヒョンスンオッパがやって来て、驚かしてきた。

もう、と文句を言えば、この前の仕返しだと言うヒョンスンオッパ。
もしかして意外と根に持つタイプだったのかな?

収録が始まる前からこうして話をしていると、スタッフさんから仲良しだと言われた。
その言葉にヒョンスンオッパは、当たり前ですよー彼女なんですから、とさらりと言ってのけたので、恥ずかしさから顔が熱くなる。

まさか本当に付き合ってるんじゃないでしょうねー、それはどうですかね、なんていうヒョンスンオッパとスタッフさんの会話を訊きながら、またしてもわたしの脳裏にはテグンの顔が浮かんできた。

どんなにヒョンスンオッパに振り回されようと、わたしにはやっぱり、テグンだけなんだ。
テグンが一番大切で、愛しいと思う。
思うのに何故…わたしはあんな態度を取ってしまったんだろうか。

ちくん、と痛んだ胸。
そして、苦しくて堪らない心。

テグンと喧嘩したことがこんなにも苦しくて痛いことだなんて、喧嘩をしたことがなかった今までを思ったら、急に悲しくなってきた。
こんな思いをするくらいなら、最初からウギョルなんて受けなければ良かったのにと後悔しても、後の祭り。



「なまえ?元気ない?」

「…ううん、大丈夫。最近カムバックの準備が忙しいから、ちょっと疲れちゃったのかな。」

「そっか。この前ティーザーの画像が発表されてたから、もうそろそろカムバックなんだ。ファイティン!」

「オッパ…ありがとう。」



はぁ、と落ち込んでいると、ヒョンスンオッパから元気が無いのだと指摘されてしまった。
カムバックで忙しかったから、という理由付けをしたけれど、実際の原因はそれではない。
まあ、それも含まれてはいるけれど。

本当はテグンと喧嘩をしたから。
あんな風にすれ違うことになるなんて思ってもみなかったことだったし…。
こんなすれ違い、ただ苦しいだけだ。

しばらくして撮影がスタートする。
最初はふたりで散歩しているところから撮るらしい。
指示通りにふたりで歩いていると、木にぶら下げられたミッションカードを発見した。



「斬新な渡し方…。」

「こういうのも面白いよね。えっと…お互いの家族に会いましょう…ん?」

「家族…?」



そのミッションカードはヒョンスンオッパが取り、内容を読んだ。
その内容とはお互いの家族に会いましょう、というもの。

家族って…リアルな方?
ううーん、と考えていると、カンペに宿舎に居る家族のことだと書かれているのを発見した。

あ、なるほど。
確かにメンバーも家族だから、そっちの家族に会うんだ。



「じゃあ行こう!最初はどっちの宿舎に行く?」

「んー…。多分今はまだ練習してる頃だと思うから…ヒョンスニオッパの方の宿舎からかな?」



どっちの宿舎から行く?、と訊かれ、今日も練習に行ったメンバーたちを思い浮かべる。
今はまだ朝だし、昼過ぎ…と言うか夕方頃に行ったら多分みんな帰って来てると思うんだよね。

そのヨミは当たり、カンペにもビーストの宿舎から行きましょう、と書かれていた。
番組側もやっぱりスケジュールはキチンと把握しているんだね。

最初に行くのはビーストの宿舎。
ビーストとは同期ではあったものの、そんなに接点は無かったからすごく緊張してしまう。



「みんな良い奴らだから安心して。」

「うん。」



わたしのそんな不安を読み取ったのかなんなのか、ヒョンスンオッパは笑顔で良い奴らだから安心してと言った。
ここからビーストの宿舎は少し離れているらしく、再びバンで移動。
収録での移動は基本的にヒョンスンオッパと一緒だから、やっぱり変に緊張してしまう。

けど、ヒョンスンオッパは優しい。
緊張しているわたしの緊張を解そうとしてたくさん話してくれるし、四次元的な部分も天然で見せられた。

…もし。
もしわたしにテグンが居なかったら…惹かれていたかもしれない。
そう思わされるほど、この数回の収録でヒョンスンオッパの魅力をたくさん感じさせられた。



「到着ー!」

「わあ、おっきい…。」

「そうかなー?シークレットもあんまり変わんないでしょ?」

「ウチより全然大きい…と思う…。」



到着したのは見るからに高級そうなマンション。
やっぱり稼いでる額が違うのかな?
わたしたちシークレットの宿舎よりも立派に見えた。

ビーストの宿舎は、贅沢にも最上階にあるらしい。
エレベーターにカメラマンと数人のスタッフさんを乗せて最上階へと向かっていく。

最上階に到着し、さてチャイムを鳴らそう、と思ったらヒョンスンオッパに即座に止められた。
どうして?、と思いながらヒョンスンオッパを見ると、黙ってた方が面白いから僕がやる、と悪戯な笑みを浮かべながらそう告げる。

…つくづく思うけど、やっぱりヒョンスンオッパって精神年齢低いよね…。
まあ、男の人は女の人よりも精神年齢が低いってよく言うし…これくらいが普通なのかもしれないけど。



−−−ピンポーン



ヒョンスンオッパがチャイムを鳴らして、中の様子を伺う。
ちなみに玄関カメラの前にはヒョンスンオッパが立ちはだかっているから、カメラもわたしも何も見えない。

うわ、これ反応面白そうだなぁ…。

しばらく待っていると、中からバタバタと騒々しい足音が聞こえて来た。
多分ドンウナだろうなぁ、と言うヒョンスンオッパの顔は楽しそう。



「ヒョンスニヒョンー。なんでわざわざチャイム鳴らしたんですか?普通に入って来たら…へ?」

「は、はじめまして…。」

「………。」



文句を言いながら出て来たのは、ヒョンスンオッパの読み通りドンウンさんだった。
ドンウンさんは最初ヒョンスンオッパしか見ていなかったけど、不意にこちらを向いて固まってしまう。

はじめまして、と挨拶してみてもドンウンさんは固まったまま。
しばらく無言という放送事故をかましたあと、パタンとドアが閉められ、またしてもドタバタと騒々しい足音が鳴り消えていった。



「多分慌てて片付けに行ったんだろうなー。やっぱ男の宿舎だからさ、シークレットより汚いけど…ごめんね?」

「…いえ。」



ドンウンさんの様子をおかしそうに笑いながら、慌てて片付けに行ったんだろうなーと言うヒョンスンオッパ。
男の宿舎だから汚いけど、と加えられたその言葉に思わず固まってしまう。

意外と…シークレットの宿舎も汚いんだけどな…。
でもまあ、そこらへんはマネージャーがしっかりしてくれているだろうから大丈夫…だよね?

しばらく待って、再びドアが開いた。
そこには笑顔のドゥジュンさんが立っていて、その後ろにはドンウンさんとギグァンさんも居る。
…片付け、無事に終わったのかな?



「さ、リンさんどうぞ!」

「ただいまー。」

「あ…、おじゃまします…。」



ドゥジュンさんに迎えられ、ビーストの宿舎に入る。
玄関はそんなに散らかってないから、多分玄関は最初からあまり汚くはなかったんだろう。
玄関を片付けているような音は一切しなかったし。

そして中に入ると、まあ即行で片付けました感溢れるリビングが見えた。
ソファーにはヨソプさんとジュンヒョンさんが座っていて、わたしを見るなりヨソプさんは微笑みながらいらっしゃいと迎えてくれる。
ジュンヒョンさんは会釈だけだけど。



「もー、ジュニョア。僕の彼女をせっかく連れて来たんだからたまには愛嬌見せてよー!」

「…んな無茶な。」

「あ、いえ、お気になさらず…。」



ヒョンスンオッパは無表情で会釈のみだったジュンヒョンさんが気に入らなかったのか、愛嬌振りまけ、と無茶振りをしていた。
わたしもジュンヒョンさんと同じタイプだから気持ちは痛いほどよく解る。

まあまあ、とヒョンスンオッパを宥めて案内されたソファーにヒョンスンオッパと並んで座ると、ドンウンさんが珈琲を出してくれた。
それをお礼を言いながら受け取り、ブラックのまま飲む。
やっぱり珈琲はブラックだなぁ。



「僕の彼女のリンちゃんことなまえだよ。特別に見せてあげる。」

「えっと…。シークレットの末っ子…リン、です。」

「良いなー。俺もこんな可愛い彼女が欲しい…。」

「ヒョンばっかりズルいですよー。」

「なまえは僕の彼女だから、絶対駄目だからね!」

「わっ!」



ヒョンスンオッパに紹介してもらい、知っていると思ったけど改めて自己紹介をする。
ジュンヒョンさん以外のメンバーさんが口々にわたしを褒めてくれて、なんだかちょっぴり照れ臭い。

良いなー良いなー、とみんなが言っていると、ヒョンスンオッパはなまえは僕の彼女だから駄目だからね!、と言いながらわたしを抱き寄せた。
テグン以外とのハグは、安定のデヒョンとハギョンしかなくて。
恥ずかしくて真っ赤になるわたしを見たヒョンスンオッパは、照れてる?、なんて悪戯な笑顔で言ってきた。

…あんまりテグンに不安を与えたくないから、そういうスキンシップはしたくないけど…。
こういう番組だから仕方ない、と腹を括るしかない。
いや、それ以前にテグンとは喧嘩しているんだし…今は仕事中だから、違うことは考えないようにしよう。



「なまえは人見知りだから、半径1m以上近付かないでね!」

「ヒョンスナ、お前本当無茶ばっかり言うよな。」

「独占欲強すぎだろ。」

「良いの!僕の彼女なんだし。他の男には触らなくてオッケー。」

「リンさんも大変だね。」

「いえ、そんなこと…ないですよ。」



ここに来てドゥジュンさん曰くの独占欲を丸出しにするヒョンスンオッパ。
大変だね、とヨソプさんに言われたけれど、苦笑いしか出て来なかった。

そう、だよね。
自分の恋人が自分以外の異性と仲良くされると…嫌、だもん。

テグンの気持ちは解る。
解るけど、やっぱりこれはお仕事で、ビジネスだけの関係だからそこもちゃんと解っていてほしい。

って、そうじゃないよね。
さっきも思ったけど、今はウギョルの収録中なんだし…しっかりしないと。
テグンのことばかり考えちゃ駄目。

ビーストの宿舎では極普通に会話をして、ヒョンスンオッパは独占欲の強さについてかなりいじられていた。
時間もいい時間になり、わたしとヒョンスンオッパはシークレットの宿舎へと向かうことに。



「なまえちゃん、ヒョンスナと別れてもまた遊びに来てね。」

「ヨソパ!」

「はい。是非また…、オッパと別れても遊びに来させてください。」

「なまえまで!」



会話をしていくうちに、ヒョンスンオッパのお陰で馴染んでいくことが出来たわたしとビースト。
その所為かみんなわたしを本名で呼ぶようになったけど…まあ、あまり気にしないようにしておこう。

別れても遊びに来てね、と言うヨソプさんに悪ノリすると、ヒョンスンオッパは拗ねてしまった。
それはバンの中でも一緒で、さっきまでは話し掛けてくれていたのに、全然話してくれなくなってしまう。

このままじゃ駄目だよね。
この沈黙、まさに放送事故だし…。



「ヒョンスニオッパ…?」

「………僕は怒ってるから何も聞こえませーん。」

「聞こえてるじゃん…。ごめんね…さっき悪ノリしちゃったから…怒ってるんだよね…?ごめんね、オッパ…。」

「…んぅー…。良いよ。なまえは特別に許してあげる!」

「ありがとう。」



このままじゃ放送事故でシークレットの宿舎に着いてしまうので、悪ノリしてしまったことを謝る。
するとヒョンスンオッパはわりとアッサリ許してくれた。

拗ねてたわりには結構アッサリね…。
でも機嫌を戻してくれて良かった。
やっぱりヒョンスンオッパはウギョルを解っているから、演技でリアルさを出してくれる。

それを有り難く思いながら、再び始まったヒョンスンオッパとの会話に相槌を打っていた。
…ヒョンスンオッパがどんな気持ちなのかも、一切知らずに。



シークレットの宿舎まで、あと少し。






(なまえちゃん可愛かったー。)

(いつも遠目だったしな。)

(…ヒョンスナ、本気っぽい。)

(うん。アレは本気だと思う。)

(ですよね。怖かったですもん…。)






******

最後は上から
ヨソプ
ドゥジュン
ジュニョン
ギグァン
ドンウン
の順番です。

ビーストもっと出したかった…。
でも力不足でした…はい…。


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