カムバックしました


お互いの宿舎に行ってから、またしてもウギョルの収録は一時中断。
その代わり、わたしたちシークレットがカムバックを果たす。

詰め込む形で練習も何もかもを済ませたから、正直不安もある。
しかもわたしは今回の曲で、メインのダンスパートをもらった。
いつもあったけど、いつもより多くてソロばかり。

大人の色気が増したこの曲でのソロは不安もあったし、ウギョルの撮影だなんだで本当にガッチガチに練習して詰め込んだから不安。
だけど周りが励ましてくれたから、なんとか完成させることが出来たんだ。

かっこよくて、セクシーなこの曲。
いよいよカムバックします。



「なまえ。」

「え?…ヒョンスニオッパ…?」



衣装に着替えて、心を落ち着かせるためにスタジオを歩き回っていたとき。
不意に本名で話し掛けられ、声のする方を見たらヒョンスンオッパがいた。

今日はビーストの出番は無いし、トラブルメーカーでの出演も無いのに…。
それなのに、どうしてこんなところに居るんだろう。

キョトンとしていると、驚いた?、なんて笑いながら言ってくるヒョンスンオッパ。
驚いたもなにも、疑問しか浮かばないんですけど。



「なまえ、あそこ見て。」

「…ああ、そういうこと…。」



ヒョンスンオッパに見てと言われて見た方向には、ウギョルのスタッフさんとカメラがあった。
ウギョルの収録は当分無いと訊いていたのに、まあまさかこんな風に仕掛けられるとは思ってもいなかったよ…。

取り敢えずこれは、ウギョルのために来た、っていう把握で良いんだよね。
カムバックステージにウギョルだなんて…ちょっぴり恥ずかしい気もする。



「なまえ、ピアス着けてる?」

「え、あ…着けてるよ。」

「良かった。じゃあこれ、今回のミッションカード。」

「ん?」



ヒョンスンオッパから突然、ピアス着けてる?、と訊かれて一瞬なんのことか解らなかったけど、多分この前ヒョンスンオッパが買ってくれたピアスのことを言っているんだろう。
着けていることを肯定すると、ヒョンスンオッパは安堵の呟きを零した。

そしてそのあとすぐに手渡された、一枚のミッションカード。
これとピアスになんの関係が…?、とは思ったけど、なんでだろう、なんとなく予想出来ている自分が恐ろしい。

カードの内容を確認すると、そこには予想通りの文字が並んでいた。
やっぱり、こういうことか…。



「ステージ中にお揃いのピアスをアピールして下さい…と。」

「そう。なまえはいつもソロのダンスパートが多いから、大丈夫だよね?」

「まあ…多分…。」



書いてあったのは、ステージ中にヒョンスンオッパとお揃いのピアスをアピールしろ、といった内容。
アピールしろ、と言われても、そんなアバウトな指示じゃ難しい。
どういう風にアピールしたら満足するのだろうか…。

じゃあ僕は関係者席で見てるから頑張ってねー!、と言いながら消えて行くヒョンスンオッパ。
あの人はウギョルのお知らせとミッションカードを渡すために、わざわざここまで来たのだろうか?
とすると、ご苦労様としか言えない。

ひとまずシークレットの楽屋に戻る。
遅かったねー、やら、もうそろそろ始まるからウォーミングアップとかは今のうちにねー、やらとみんな口々に言っていたが、わたしには言葉を返す気力などサラサラ無かった。

はて、困ったな。
どうアピールしたら良いんだろう。



「あ、次の次だからスタンバイしなきゃ。みんな行くよ。」

「はーい。」



しばらく経ってから、ヒョソンオンニの言葉で出番が近付いていることに全員気が付いた。
まだ上手いアピールの仕方を考えついていないのに…早いなぁ。

ステージ裏に立ち、まずはインタビューから。
わたしたちが登場すると、観客のファンの子たちが一気に湧き出す。
やっぱり、こういう歓声はいつ訊いても気持ちが良い。

そしてインタビューも終え、カムバックステージが始まった。
ああ、出しているお腹が冷えたような感覚になってきて、お腹が痛い。

イントロの音楽が流れ出し、わたしのソロパートになる。
カムバックだからミュージックビデオに忠実にしたいけど、まあここはもともとフリーダンスだし…ちょっと変えてみても良いかな。
何か言われたらウギョルのミッションだったって言えば良いし。

ソロパートで行ったアピールは、セクシーに顔周りに手を這わせ、髪の毛をかきあげる。
そしてカメラに向けてピアスを差し出し、ピアスに一瞬だけ触れた。

そこが終わってすぐに、ヒョソンオンニの歌が始まる。
次にアピール出来るのは…後半くらいかなぁ?
歌いながら踊りながらはちょっとキツいものもあるし…。

歌が始まってからは、とにかく歌に集中することに決めた。
わたしは人付き合い同様、いろいろと不器用だから…。

2番のサビが終わってブリッジに差し掛かって、ヒョソンオンニに続いて歌い、フェイクをしているときに再びピアスをチラ見せする。
そして最後も何回かチラチラとピアスをアピールしてわたしたちシークレットのカムバックステージが終了した。

どうせならカムバックして少し経ってからそういうミッションを与えて欲しかったな…。
そうしたらもう少し、もう少しだけ融通が効いたのに。



「お疲れ様、なまえ。カムバックステージ、良かったよ。」

「ぅわ!?え…ヒョンスニオッパ、なんでこんなところに…!?」



ステージ裏に移動し、スタッフさんからタオルや水を貰う。
変な汗をかいてしまったわたしは、取り敢えず水を受け取った。

そしてゴクゴクと水を飲んでいたときに、不意に首に感じた柔らかい感覚。
え?、と思っていると、ヒョンスンオッパの声がして、ふわりと後ろから抱き締められた。

いくらウギョルだからって、さすがにこれはやり過ぎなんじゃ…!?
突然のスキンシップに、わたしの緊張のレベルはさらに上がっていく。



「あらー、仲良しなカップルね。」

「ほらほら、あたしたちは邪魔しないように先に行ってましょう。」

「ちょ、オンニたちー!」



突然のスキンシップに戸惑っているとニヤニヤしながら通り過ぎていくオンニたちメンバーが視界に入った。
テグンにこの映像が届くと困るし、事情を知っているメンバーたちに助けてもらおうと思ったんだけど…。
何故見捨てるの!?

この前宿舎に行ってヒョンスンオッパが近いとき、あんなに牽制してたのにどうして今回はあんな対応なの?
いくらアドレナリンが出ているからって、空気読みすぎじゃないかな…。



「ねぇなまえ。」

「なに…?」

「今、本当はカメラは無い、僕が好きでこうやって抱き締めてるって言ったら…なまえは困る?」

「え…?」



抱き締められたまま、近くで聞こえてきたのはわたしにしか聞こえない程度のボリュームで話す、ヒョンスンオッパの話し声。
ヒョンスンオッパが言っている言葉の意味が…わたしには、あまり理解することが出来なかった。

今、カメラは無いの…?
テレビ向けとかじゃなくて、ヒョンスンオッパの意思で…わたしを抱き締めてるってこと…?

ぐるぐるとヒョンスンオッパの言葉が回り出す。
どういうことかと回り辛い頭で必死に考えていると、ブッ、と噴き出すヒョンスンオッパが視界の端で見えた。
オッパ、唾飛んでます。



「ごめん。さっきのは冗談だから、あんまり気にしないで。」

「…ヒョンスニオッパ、言って良い冗談と悪い冗談があるって知ってる?」

「ごめんごめん。お疲れ様、なまえ。すごい綺麗だったよ。」



さっきのは冗談だ、と言うオッパ。
それならそうと最初に冗談だと言っててほしいし、冗談にしても程が有る。

オッパには振り回されてばかりで、本当に忙しい。
いろんな意味で、ね。

それから着替える前にウギョルのカメラの前に行き、各々今日のステージの感想などを述べていく。
ヒョンスンオッパはずっと、綺麗だった、とか、トラブルメーカーよりセクシーだった、とかベタ褒め状態。
ヒョナさんの方がわたしより全然色気あると思うんですけど…。

そんなこんなで、最後に数枚自撮りを撮って今日のウギョルは終了。
わたしはまだ、最後にステージに上がるから待っていないといけない。

僕これから仕事だから、と言って仕事へ向かったヒョンスンオッパ。
一応、という形でフォローしたツイッターを開くと、ヒョンスンオッパは早速さっきの自撮りをツイッターに載せていた。
…わたし、可愛くないなぁ…。



「なまえ、そろそろ行くよー。」

「あ、うん。」



ジウンに呼ばれ、座っていた椅子から立ち上がる。
作成途中だったツイッター記事…投稿してしまおう。

−−−オッパ、ありがとう。

その文章とともに写真を載せて、ツイッターに呟いた。
そう言えばこれ、半年ぶりに投稿したかも…。






(なまえがツイッター更新してる!)

(そう言えばカムバックでしたね。)

(テグニヒョンは応援にはいかな)

(おい、今それ禁句だから言うな。)

(テグナー、先輩に取られるよー?)

(ちゃんと素直になりましょう。)

(………。)

(ヒョンって本当…素直じゃない。)


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