はじめてのスポーツ
かれこれ6回目のウギョル収録。
4回目のウギョルは、なんでも高視聴率を得たらしい。
まずはビーストとシークレットの宿舎に行ったから、と言うのと、予告でも出ていたマル秘ゲストとされたビーエイピーの登場でベイビーの子たちも観たことによるもの。
そして残りは…あの日、わたしが関係者席に行ってテグンのことを確認したあとにヒョンスンオッパも関係者席を立ったから…らしい。
次の日から、ウギョルの恋人設定はリアルだった!、とか、仮想恋人から本物の恋人へ?、などと好き勝手に報道されてしまったから。
もちろんお互いの事務所では否定したけれど、番組スタッフとしては思ってもみない宣伝だったから、思わぬ高視聴率に喜んでいた。
まあ、数字が取れたことは事務所の社長も喜んでいたんだけどね。
それよりも、このことで気付いた。
どうしてヒョンスンオッパがテグンのことを言ったのか、ということ。
もしかしてみんな知っていた…?
いや、知っていたとするとメディアに出ているだろうし…違うのかな。
「おはよう、なまえ。」
「わ!…もう、いつもいつも驚かさないでよ。おはよう、オッパ。」
今日もヒョンスンオッパより早くに到着したから、ヒョンスンオッパの到着を待ちながら考えていた。
するとヒョンスンオッパはこの前同様わたしを驚かせて来て、楽しそうにケラケラと笑う。
この人は本当に、子どもみたいだ。
スタッフさんから訊いた話、このウギョルはあと2回ほどで終わりらしい。
高視聴率に注目となれば続行させられるのかとも思ったけれど、そもそもこれは特別版で夫婦ではないし、他の仮想夫婦同様には放送出来ないらしい。
まあ、わたし的には心臓に悪いから有り難いんだけどね…。
撮影が始まるまでヒョンスンオッパと話していると、スタッフさんから撮影を始めるのだと声を掛けられる。
はーい、と言って立ち上がったわたしを見て、ヒョンスンオッパは不思議そうに首を傾げた。
どうしたんだろう。
「なまえ…今日、いつもよりちょっと小さい?なんで?」
「あ…。今日ヒールじゃないから、じゃない…?スニーカーだし…。」
「そっか!だから小さいんだ!」
ヒョンスンオッパはいつもより小さいわたしを不思議に思ったらしい。
今日は何故かスニーカーを履くように言われたから、いつもと違ってヒールじゃないんだけど…。
そうだよね。
普通に考えていつもヒールを履いてる人間がスニーカーを履けば、そりゃ小さくなるもん。
現にヒョンスンオッパとの距離が、いつもより離れてるし。
ヒョンスンオッパと並んでカメラが置かれているところまで向かう。
一応外で待ち合わせしていたけど、今回は何をするつもりなんだろうか。
「なまえ、ミッションカード。」
「ヒョンスニオッパ、どうぞ。」
「たまにはなまえも読んでみなよ。ほら、ね?はい。」
「え…。…解った。えっと…今日は思いっきり運動しましょう、…あ、なるほど…だからスニーカー…。」
撮影が始まった途端、ヒョンスンオッパがポケットから取り出したミッションカード(なんで持ってたの…)。
いつも通りヒョンスンオッパに読むように言うと、たまには読みなよ、と読むことを促され、仕方なくミッションカードの内容を読み上げた。
そこに書かれていた内容は、運動しましょう、という文字。
ああ、だから外に呼ばれて、そしてヒールが禁止だったのね。
ヒョンスンオッパも動きやすそうな、いつもよりラフな感じだし。
それはヒョンスンオッパも解ったらしく、だから今日のなまえはこんなに小さいんだね、と言って笑いながらわしゃわしゃと頭を撫でてきた。
オッパ、いくらストレートのセットだからって乱れるものは乱れるんです。
スタッフさんに誘導されて辿り着いたのは、ストリートバスケのコート。
そこには既に、思いっきりバスケしますという格好の男の人たちが居る。
この中に紛れ込むのかな?
「あ…。ヒョンスニオッパ、あの人たちに紛れ込む…らしいよ。」
「本当だ。じゃあ行こう!」
「わっ!ちょ、急に走らないで…!」
どうするんだろう、と思っていると、手書きのカンペに紛れ込むように書かれてあるのを見付けた。
絶対負けるだろうに、なんで紛れ込むんだろうか。
しかもわたし、女なんだけどな…。
ヒョンスンオッパに手を引かれ、バスケットコートに入る。
急に走り出したからびっくりした…ヒールじゃなくて助かりましたよ。
カメラを見付けた彼らは流石にわたしとヒョンスンオッパで出ている番組を知っていたのか、すぐに理解して勝負してくれた。
もともと複数人でやっていたから、わたしとオッパのチームにも数人入れて試合が始まる。
…わたし、バスケしたことないし…足引っ張らないかなぁ…。
「なまえ!」
なんて思ったけれど、意外とわたしは出来る子…らしい。
ヒョンスンオッパにパスを回され、ジャンプしてシュート。
かっこいいシュートでは無かったし、多分向こうもわたしが女でアイドルだからってことで、下手なことは出来なかったんだろう。
あれ?
そう思ったら、わたしにボールを回してくるヒョンスンオッパってちょっとズル賢い…?
でもわたしもコントロール力はあるみたいで、スリーポイントゾーンからボールを放つとゴールが決まる。
ゴールが決まる度にヒョンスンオッパはわたしに飛び付いて喜ぶから、そろそろ心臓が持ちそうにない。
過度なスキンシップは、誰であっても心臓には悪いんです。
「!なまえ危ない!」
ゲームは早くも3ゲーム目。
2対1でわたしたちが少し有利で、あと1ゲーム決めたら終わるというところで油断していたらしい。
重くて大きなバスケットボール。
見事に顔面で受けちゃいました。
さっきも言ったけど、わたしは女で、シークレットというアイドルグループのメンバー。
だからスタッフさんも周りの男の子たちも、もちろんヒョンスンオッパも心配そうに駆け寄って来た。
確かに当たった瞬間は痛かったけど、そこまで気にするような痛みでも無ければ怪我もない。
だからゲームを続行して参加すると言ったのに、ヒョンスンオッパは駄目の一点張り。
心配してくれているのは解るけど、思ったよりもバスケが楽しいから、わたしも引き下がりたくはなかった。
でも女が居て、しかもアイドルとなれば男であるヒョンスンオッパよりもやり辛いだろう。
だから拗ねるフリを頑張ってしながらコートの隅にはけた(ちゃんと違う子が代役で入ってくれたから安心)。
「なまえ!またゴール決めたよ!」
「オッパすごい。」
それからは、わたしはもっぱらヒョンスンオッパの応援役。
ゴールを決めたら子どものようにはしゃいで、褒めて褒めて、とアピールしてくるオッパが可愛らしい。
結局このあとヒョンスンオッパが居るチームが勝って、バスケは終えた。
それからもアスレチックのある場所に行って遊んでみたり、スタッフさんが用意してくれたお弁当をわたしが作ったことにされてそれを食べたりと、外で思ったよりも楽しい時間を過ごす。
今日は本当に遊ぶことだけが目的だったらしく、一通りアスレチックも終えたらわりとテープが回ったらしい。
本日の収録はこれで終了です、という言葉を訊いて全身の力が抜け落ちた。
楽しかったけど、流石に疲れたな。
今日は帰ってリンパマッサージして寝よう…なんて思っていたとき、ふとあることを思い出した。
そう言えば、ヒョンスンオッパに聞きたいことがあったんだ。
「ヒョンスニオッパ、あの…今、ちょっと良い…?」
「良いよ。どうしたの?」
ヒョンスンオッパも帰ろうとしていたみたいで、準備をしていた。
わざわざ中断させるのも悪いかな、とは思っていたけど、こういうことは早く訊いておいた方が良い。
ヒョンスンオッパを人通りの少ないところに連れて行って、あの…、と口を開いた。
ヒョンスンオッパに訊いたのは、どうしてテグンのことを教えてくれたのかということ。
視線を逸らしたらなんだか怪しいかもしれない、と思ったから、ヒョンスンオッパの目を見ながらオッパに真っ直ぐに問い掛けた。
あー、と思い出したかのように声を零すヒョンスンオッパ。
バレたのかな、と思うと心臓が凄く煩くて聞こえてしまわないかと不安になったけど、ヒョンスンオッパは気にすることなくいつもの笑顔を浮かべた。
「レオくん、隣のエンくんにちょっと出るって言ったんだ。たまたまそれが聞こえて、それでなまえが入って来たから他にあそこを出た人は居ないから予想で言ったんだよね。」
「そう…なんですか。」
どうやら、テグンはハギョンに伝言のようなものを残したらしい。
それをたまたまヒョンスンオッパが訊いていて、それでテグン以外の人が関係者席から出ていなかったから言ってみた、っていうことか…。
なら良かった。
張り詰めていた緊張感が一気に消え去り、肩の力が抜け落ちる。
本当、安心した。
くだらないことを訊いてごめんね、テグンとハギョンに呼ばれて行ったんだけどなんで解ったんだろうって思って訊いちゃった、と適当に言い訳をしてヒョンスンオッパと解散する。
けど、ヒョンスンオッパの本当のことは…わたしには解らなかった。
そしてわたしの姿が見えなくなったと同時に悲しげに歪めたヒョンスンオッパの表情も、わたしは知る由もなかったんだ。
(ソナ…マッサージして?)
(良いけど…ウギョルで疲れたの?)
(うん…。初めてバスケした…。)
(あは。なまえ眠そう。)
(ちょっ、寝るのはお風呂の後ね。)
(はーい…。)
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