久しぶりの彼


「なまえ、緊張してる?」

「少し…。でも、テグナが居るから大丈夫だよ。」



今日、わたしたちの曲が発表される。
ダンス有り歌有りで、一週間各音楽番組で披露したら、それはもう終わり。
なんだかんだでミュージックビデオもダンス動画も撮り終わっているから、これでもう、テグンとの仕事は完璧に終わってしまうんだ。

今日の衣装は、わたしの身体のラインが目立たないように選ばれた。
あんまりにも痩せ過ぎたのか、久しぶりに会ったSecret専属のスタイリストさんたちにはかなり驚かれたっけ…。

専属スタイリストさん全員のお陰で、わたしの顔色の悪さも目立たないようにしてくれた上に、前と然程変わらないスタイルに見えるようになんとか誤魔化してくれた。
スタイリストさんたちが驚くっていうことは、やっぱりファンの子たちも驚くだろうから…。
心配されないようにするために、なんとか誤魔化してもらったんだけど…。

やっぱり、動きだけはどうにもすることが出来なかった。
前よりも力も無く、覇気も無い。
心配されないようにしたいのに、これだけはどうしても誤魔化せなかった。



「お邪魔しまーす。」

「ヒョンスニオッパ!」



鏡の自分と睨めっこをしていると、楽屋のドアが叩かれる。
着替えなどがあるので別室だったテグンかと思ったけど、訪れたのはなんとヒョンスンお兄さんだった。

ヒョンスンお兄さんと会うのはウギョルぶりだから…。
だいたい半年くらい前のこと。
半年ぶりに会ったヒョンスンお兄さんは、なんだかウギョルのときよりも輝きを増しているようにも思えた。



「なまえ、ドラマ良かったよ。やっぱりなまえは可愛くてかっこいい。」

「ヒョンスニオッパ、煽てても何も出ないからね…?」

「えー、そうなの?」

「当たり前です。」



ヒョンスンお兄さんとわたしの別れは本当の別れだった。
だけどヒョンスンお兄さんはそれさえも感じさせないように、ごく普通に話してくれる。

お兄さん曰く、BEASTのメンバー全員でドラマを観てくれたらしい。
わたしの演技力なんて乏しかったはずなのに、ドゥジュンさんを筆頭に全員が褒めてくれていたみたいだ。



「あーあ、なまえと歌って踊るの、僕だと思ってたんだけどな…。」

「ふふ…。ヒョンスニオッパの隣は、ヒョナさんが似合うよ。」

「ヒョナは違うよ。僕に似合うのはなまえだけだって思ってるもん。」

「え…?」



不貞腐れたように、なまえと歌って踊るのは僕だと思ってた、なんて言うヒョンスンお兄さん。
そんなお兄さんに、お兄さんの隣はヒョナさんが似合うよ、と言うとヒョンスンお兄さんは真面目な表情を浮かべて、言い切った。

"僕の隣はなまえだけ。"

その言葉に、また…あの日のことがフラッシュバックする。
わたしなんかが傷付けてしまった、ヒョンスンお兄さんの心。
泣いていたヒョンスンお兄さんのことを思い出したら、罪悪感に襲われた。



「僕、諦めてないからね。別れたら即行でアピールするから立候補する。」

「…意地悪。別れないから、立候補しなくても平気です。」

「そう言うなまえも意地悪じゃん。」



戯けたように、別れたら即行でアピールするから立候補する、なんて言ってくるヒョンスンお兄さん。
ヒョンスンお兄さんの表情が和らいだだけで、罪悪感も薄れていく。

気を取り直して、別れないから立候補しなくても平気です、と言えば、ヒョンスンお兄さんはまた不貞腐れた。
これじゃ、どっちが年上なんだか解らないよね。

だけど、こんなヒョンスンお兄さんだったからこそ、わたしはウギョルを遂行することが出来たんだと思う。
今回だってテグンが相手だから、普通よりも頑張れているんだ。
わたしって本当に、恵まれている。



「ステージ楽しみにしてる。みんなで見に来ているから、あとでBEAST全員連れて来るね。」

「うん。待ってる。ありがとう。」



ヒョンスンお兄さんとたくさん話し、時間が近付いてヒョンスンお兄さんは関係者席へと向かって行った。
そうか、BEAST全員で来てくれているんだね…。
そう思ったら、無意識の内に少しだけ緊張が高まった。

ヒョンスンお兄さんが楽屋から出て行って数分後、テグンが現れた。
もう始まるから、と言うことで差し出されたテグンの大きな手。
その手を掴んで座っていた椅子から立ち上がり、テグンの隣に並んだ。

これから、ステージが始まる。






(おかえり、ヒョンスナ。)

(どうだった、久しぶりの彼女は。)

(…ヒョンスナ?)

(なまえ、痩せてた。)

(え?ダイエットしたのかな?)

(違うと思う。)

(まあ、必要ないくらいだしな。)

(腕も足も…細過ぎだよ、なまえ。)

(…大丈夫、なのかな?)

(…多分。大丈夫だと、思う…。)


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