出来ること


ある日の収録日のことだった。



「ちょっと良い?」



ヒョンスンさんに、呼び出された。

ヒョンスンさんに呼び出され、テレビ局で一番人通りが少なさそうな場所へと連れて行かれる。
そこには本当に人が居なくて、例えるなら恋人と密会するには絶好の場所。
そんな場所に、連れて来られた。

なんの話かは、なんとなくだけど想像することが出来る。
多分…なまえ関連のこと、なんだろうけど…何を言われるんだろうか。



「…なまえに、会った?」

「………はい。」



重い沈黙を破ったのは、ヒョンスンさんから。
なまえに会った?、という疑問に肯定すると、ヒョンスンさんの表情は一気に険しいものに変わった。

そしてそのあとすぐ、やっぱり…、と彼が呟いたのは俺の聞き間違いではないはず…だ。
その"やっぱり"とは、いったいどういうことなのだろうか。



「この前なまえに会ったら、すごく元気が無かったんだ。だからどうせレオくん関係だとは思ったんだけど…ビンゴだったみたいだね。」

「………。」



ヒョンスンさんの言葉に、思わず黙り込んでしまう。
元気が無かった…というヒョンスンさんだけど、その原因が俺だと断言して来るヒョンスンさんが怖いと思った。

彼がなまえのお見舞いに行っているのは、週刊誌で知っている。
本人…と言うより事務所はすべてを否定しているが、なまえはあの病院に居るのだから恐らくは事実だろう。
だから今さらなまえに会ったと訊いても驚かないが、断言して来たことには流石に驚いた。

ヒョンスンさんは、なまえのことをよく見ている。
だからこそ解ったんだろう。



「なまえに何を言ったの?」

「……………。」

「答えられない、かー。でもどうせ、距離を置こうとか言ったんでしょ。」

「っ!」

「その反応、ビンゴみたいだねー。」



ごく普通の態度のヒョンスンさんとは反対に、ひとつひとつの言葉に過剰に反応してしまう俺。
距離を置こうとか言ったんでしょ、と言われて、身体が強張る。

その反応で解ったらしい。
ヒョンスンさんはケラケラとひとしきり笑ったあと、真剣な表情になった。



「今のなまえの状況、知ってるよね?なのに心の拠り所であるレオくんから距離を置かれたら、なまえはどうしたら良いの?なんで今、離れたわけ?」



ヒョンスンさんが言うことは、正論だと解っている。
俺だってタイミング的に悪いとは思ったけど、逆に距離を置かないとどんどんなまえを傷付けてしまうような気がしたから…。
だから、俺はなまえから離れた。

そう言っても、結局は俺が弱いから出て来る言い訳なんだ。
その言い訳をヒョンスンさんが素直に聞き入れてくれるなんて、思えない。

黙っていると、ヒョンスンさんから重たい溜息が零される。
落としていた視線をヒョンスンさんに合わせると、ヒョンスンさんは怒ったような表情を浮かべていた。



「良いよ。レオくんがその気なら僕がなまえの隣に居る。僕がなまえの側にいて、いろいろ励ましてあげるよ。」



それだけを言うと、ヒョンスンさんは俺に背中を向けて何処かへと行ってしまった。

ヒョンスンさんが、なまえの隣に…側に居る、のか…。
そのことを思ったら、思わず握った掌に力が篭る。

側に居てやりたいのに居てやれない。
隠れて隣に居ても、今のままじゃ俺はなまえのことを傷付けてしまう。

……だったら、やるしかない。
なまえが戻って来るまで頑張って、俺なりに出来ることをやってみせる。

いつまでもヘタレて居られない。






(おかえりテグナ、大丈…テグナ?)

(…今まで、ごめん。)

(え、ど、どうしたんですか?)

(ちゃんと切り替える。悪かった。)

(…もー、気付くの遅いよテグナ。)

(頑張ろうね、ヒョン。)


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