俺を動かすのはキミだけ


「テグナー。」



仕事中、不機嫌さ丸出しのハギョナに呼ばれて、ハギョナの側に近寄る。
ねぇちょっとこれ見てよ、と言われて差し出されたのは、ハギョナの携帯。
その画面には、この前放送されていたシークレットが出ていた回の週間アイドルの動画が流れていた。

確かこの前、ハギョナが半ば強制的にメッセージを送らされていたっけ。
どうやら今回は、それの返事を送っていたらしい。

なまえからのメッセージは、ハギョナのことは嫌いじゃない、仕事が終わったら返す、という内容。
これがどうした、と思っていたら、ハギョナは俺から携帯を遠ざけ、少ししてまた画面を向けて来た。
その画面に映っているのは、ハギョナとなまえのカカオトーク。



「あいつ返すって言ったくせに、返してない!」

「…あっそ。」

「あっそ、じゃないー!あいつはいったい、なんなんだよ!僕はヴィクスのリーダー、エンだぞー!!」



いや、なまえはお前より先輩だから。
そんな言葉は飲み込んで、撮影中の末っ子へと視線を送る。

そして再びハギョナに視線を戻してみれば、ハギョナは携帯を睨みながら、スタンプ攻撃してやる…なんて、ボソボソと呟いていた。
そんなことやってるから返事を返してもらえないんだぞ、とは思ったけど、わざわざ教えてやる義理はないと判断し、黙ったまま。

アホみたいに携帯を見つめるハギョナを無視していると、ピカピカと光だした俺の携帯。
携帯の画面には新着トークが表示されていて、思わず笑ってしまった。



−−−ハギョナが煩い。



短く、ただそれだけ。
相手はもちろんなまえで、ハギョナはさっきから、既読しかつかない!、と怒っている。

ほら、やっぱり。
しつこいと嫌われる、ということを、こいつは知らないのだろうか。
…まあ、ハギョナはなまえに嫌われるということは、無いんだろうけど。
親友、だし。

取り敢えずなまえには、俺にはどうにも出来ない、と返しておいた。
ら、早めに送られて来た返事。
…お前、俺に返すくらいなら文句のひとつやふたつ、ハギョナに返してやれよ…(煩いから)。

そうは思ったが、なまえが他の男と頻繁に連絡を取るよりかは、そちらの方が些かマシなんじゃないだろうか。
なんて、存外俺も、自分で思う以上に独占欲が強いらしい。

そんな自分に自嘲しながらも、画面をタップして通話画面を表示する。
そして通話ボタンを押せば、待ち歌として設定されているビーエイピーの歌が流れだした。
やっぱりあいつは、ブラコンなのか。



『ハギョナ、黙らせて。』

「俺には無理だ。」

『ブロックしようか…。』



電話の相手は、もちろんなまえ。
ヨボセヨ、もなにも無くハギョナの愚痴からスタート、ということは、まあ腹を立たせているんだろう。

ブロックしようか、なんて聞こえて来たものだから、仕方が無い。
そろそろハギョナに口添えるか。
きっとブロックなんて冗談なんだろうが、なまえならやりかねない。
念には念を、というやつだ。

…それより。
数日前に会話をしたというのに、足りない、と思ってしまう。
それはなまえと会っていないから、というのも大きいだろう。



「…なまえ。」

「え、なまえ!?ちょ、テグナ!僕にも電話代わって!!」

「…チッ。」

『…テグナ、ハギョナには代わらないで。それと…わたしも、テグナと同じ気持ちだから、きっと…。』



なまえ、と名前を呼ぶと、それに気付いたハギョナが俺に飛び付く。
チッ、と舌打ちをしたは良いが、さっき俺は、なにを言いかけたんだ?
なんだか途轍もなく恥ずかしいことを言いかけたような気がして、飛び付いて来たハギョナに少しの感謝すら、薄らと感じてしまった。

だが、こうやって素直に言えない自分が腹立たしくもある。
恐らく表向きはハギョナに舌打ちしたのと変わりなく思われるのだろうが、きっとあの舌打ちには、自分自身に向けての意味もあっただろう。

そんな自分を情けないと思っていたとき、なまえも恐らくは俺と同じ気持ちなのだと言った。
それを訊いただけでなまえが好きだと思う俺は、やはり単純な人間。



『じゃあテグナ、また…。落ち着いたら、会おうね…。』

「ん…。」



口数の少ない俺たちの会話なんてものは、いつもこんなものだ。
だけど言葉を交わさずとも、胸の奥がポカポカと暖まる。
それが、幸せなんだと実感させてくれていた。

未だにハギョナはブツブツと文句を言ってるし、なんで電話切ったんだよ馬鹿ー!、と騒いでいる。
そんなハギョナを無視し、カメラマンに、次はレオさんお願いします、と呼ばれたので、撮影ブースに足を踏み入れた。

今日も、頑張ろう。






(テグナ!テグナ!)

(…なんだよ。)

(なまえから返事来た!)

(…怒ってるな、なまえ。)

(だよね!なんで!?どうしよう!)

(…はぁ。)






******

2話でお気付きの方は多かったかと思われますが、お相手はレオさんです。
レオさんの性格が自分で書くと迷子になるので、泣きそうです…。


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