1,000日目のプレゼント


わたしとテグナが付き合いだして、早くも3年が経過した。
3年が経過、ということは、付き合ってから1,000日が過ぎた、ということにもなる。

けれど生憎、わたしもテグナも仕事で祝うことが出来ず、今日、僅かな空き時間を利用して、祝うことになった。
例えそれが数分だったとしても、会えることはとても嬉しい。
今回は2時間の時間が空いたから、なおさら喜びは増す。

先日、ジウンとソナ、それからチャナとヨングガに渡したピンキーリング。
それのうちのひとつをハギョナへ渡すために持参し、それと酷似したわたしとお揃いのペアリングも用意してる。

わたしはもともと、記念日というものを気にする質では無かった。
恐らくそれは、テグナも同じだろう。
それでもなんだか1,000日というものは特別な気がして、だからこそ、プレゼントを用意したのだ。



(喜んでくれるかな…。)



テグナと会うために向かったのは、会員制の高めのバー。
ここは芸能人が秘密裏に使用し、恋仲の芸能人も御用達のバーなんだ。

ここはひとりでも会員であれば入れるので、わたしが先に入り、スタッフにテグナが来たら通すよう言い付ける。
テグナはまだまだ新人だし、遣えるものも少ないだろうからこんなバーの会員には、もちろんなっていない。

モスコミュールを頼み、それを飲む。
普段はあまり吸わないけれど、酒の場になると吸いたくなるタバコを口に咥えて、火を灯した。
アルコールとニコチンが、身体の中で嫌に結合していくのが解る。



「…タバコ。」

「…あ。」



半分ほど吸ったとき、口にあったはずのタバコが、ゴツゴツとした手によって引き剥がされた。
タバコ、と小さく呟く、その声の主が誰かは予想出来ている。

くるりと振り返ると、少し不機嫌そうなテグナが立っていた。
テグナ、と呼べば、お待たせ、とこれまた小さな声で返ってくる。

灰皿に押し当てられ、ぐちゃぐちゃに潰されたタバコ。
あーあ、まだ吸えたのに。
そうは思ったけど、テグナはタバコが嫌いなのだから仕方が無い。



「…なまえ、その…1,000日。」

「…うん。」



わたしの隣の椅子に座り、テキーラトニックを頼むテグナ。
相変わらずザルなのね、と思いながらも、手元にあるモスコミュールをクイッと飲み干す。

次はベルモットをベースとした、オリジナルのカクテルをチョイスする。
こうして考えてみると、わたしもアルコールはなかなか強めな方なのかもしれない。

届いたテキーラトニックとカクテルで、カチンとグラスを合わせる。
響き良い音が耳に残っていて、なんとなく、さっきまでの疲れがぶっ飛んでしまったようにも思えた。

こく、とカクテルを喉に通していたとき、テグナが口を開く。
深刻、と言うより、真剣、な表情を浮かべるテグナ。
何事だ、と思っていたら、テグナは単語だけを口にした。
ああ、なんとなく、解ったよ。



「なまえ、これからも、俺の隣に居てくれるか…?」

「居るよ。…きっと、これから先も、ずっと…。」

「…ありがとう。」



いつも無表情なテグナ。
だけど、言葉を告げるとき、ちゃんと微笑んでくれていて。
胸が締め付けられた。

それからもほろ酔いになるまで飲んで、プレゼントを渡すために、ポケットに入れていた箱を握る。
どうしてだろう。
なんだか、すごく緊張する。



「あの…テグナ、」

「なまえ、」

「………。」

「………。」



…これは、喜んでもいいこと、なのだろうか。
プレゼントを渡すために口を開けば、タイミング悪くもテグナと声が重なってしまった。

タイミングが同じだなんて、ギャグマンガじゃあるまいに。
勘弁してほしい。

テグナに、先に良いよ、と言えば、じゃあ…、と言いながらひとつの細長い箱をわたしに出して来た。
なんだろう、ワインとかだろうか、なんて考えていると、気に入るか解らないが開けてみてくれ、と言われ、まずは包装紙を剥がしその箱を取り出す。

パカッと開けて出て来たのは、小さなハートに小石が着いた、可愛らしいネックレスだった。
驚いてテグナを見ると、テグナは照れ臭そうに鼻を掻きながら、わたしから視線を逸らす。



「テグナ、ありがとう。…あとこれ、わたしから、なんだけど…。」

「?」



テグナにお礼を言ったら、今度はわたしがプレゼントを渡す番。
おずおずと箱をカウンターテーブルに置けば、テグナは不思議そうにそれを見つめていた。

開けて、と言えば、ようやく受け取って包装紙を剥ぎ出す。
ちょっと可愛すぎただろうか、なんて思いながら、緊張で身体が強張る。



「!これ…。」

「わたし、と…お揃い。カモフラージュで数人に酷似したものを贈っておいたけど、これは、ふたりだけ。」



箱を開けて驚いているテグナ。
照れ臭さを隠しながらわたしの指輪を外し、内側に書かれているふたりのイニシャルをテグナに見せる。

わたしはゴールドのピンキーリング。
テグナはシルバーのピンキーリングにしておいた。

テグナは内側のイニシャルを見て、また柔らかく微笑む。
その笑顔が大好きだから、ずっと、彼の側に居たいと願ってしまうのだ。

だから神様。
願わくは彼と………。





(大事にする。)

(うん。わたしも、大事にする。)

(…あ、そろそろ時間か。)

(…そうだね。)

(また、時間作るから。)

(うん、わたしも、時間作るね…。)


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