全ては欲望の権化

  ※割と下品なR-15。本編完結後設定


「ヤらないんだ?」
「あ?」

唐突に投げられた言葉に開いた口が塞がらない。気分はまさに、いきなり何言ってんだこいつ。

一応恋人と呼ばれるようになって数ヶ月。何度かお互いの家を行き来したり、軽い粘膜接触(いわゆるキスというやつだ)をしたりと手順を踏んだ数ヶ月を過ごしてきた。今日も例に漏れず俺の家にナマエがいる状態である。
互いの仕事が多忙なのでだいぶゆっくりと手順を踏む俺たちだったが、初めて二人揃っての連休が取れた。その嬉しさに有頂天になった俺が誘いをかけて今に至る。

つまりはナマエは泊まりだ。やったぁ。
浮かれた気持ちをほぼ隠さないままに、一日を二人でゴロゴロしていればすぐに夜になった。休日の時の流れってやつは残酷だと思う。愛しい休日よさようなら、明日も休みだけど。

そんな感じの中、適度に手を抜いた夕食を二人して食べて、さあ風呂だと家主の俺が先にシャワーを浴びたところで、恋人の口から冒頭の一文が飛び出した。いきなりすぎる。マジかお前。
ぽかんと口を開いたままの俺を見て、そいつはいかにも人畜無害ですというような顔で笑っていた。でもさっきちょっと下品な言葉が飛んだような、なあ。

聞き間違いかと見つめるが、ロイヤルパープルの目に浮かぶのは明らかな劣情の光。まったくもって聞き間違いではなかった。掘られる?いやまさか、掘ってしまう、だ。
思わず距離を取ろうと腰を後ろに引いたが、残念、後ろはふかふかのソファだった。広すぎるリビングにちょうどいい、大きいそれは俺もナマエも気に入っている一品だったが、この時ばかりは恨めしく思った。

後ろに向けて転んだ俺に跨り、男はまた笑い声をこぼす。くたびれたねずみ色のスウェットの上から、つつつ、白い指が太ももをなぞっているのがわかった。背筋が粟立つ。

「折角の休みなんだから、楽しまないと…ね?」
「お、まえ、」
「今日はずっと期待してたんだよ、こういうこと」

なのに全然、手出しもしないから。
明確な意思を持った指先が太ももから離れ、足の付け根に触れる。そこにはまだ兆していない男の象徴があるわけだが、そいつはそこを執拗に狙ってきた。

「っ、やめろ」

特に行動を制限するつもりもないのか、軽く力を入れてやれば簡単に上半身を起こせる。肩肘をついてナマエを押した、が、退く様子は見られない。どうやら本気で致すつもりのようである。
どうしようと考えているうちに、分身がむくむくと起き上がってしまった。「元気だね」と嬉しそうに言った男の頬は上喜して赤く染まっている。本当、どうかしてるんじゃないか。

今日はやけに無防備だとか、やたらスキンシップが多いなと思っていたら、まさか期待していたなんて。仮にも意中の相手というやつに言われたのだから、そりゃあ反応するなっていう方が無理だ。心がしんどい。
二人で初めて過ごす連休。がっついていると思われるのが癪で、頭の中で般若心経を唱えてまで煩悩を滅していたというのに。

「ベッド行く?それともこのまま?」

頭を抱える俺とは裏腹に、ナマエは楽しそうだ。俺の耐え忍んだ時間を返してくれと言いたくなる。

一応俺だって枯れていない。アラサー(というか、三十路)の性欲を舐めちゃいけない。二十代は勢いだが、三十代にもなってくると妄想にリアリティが加わって生々しいことになるのだ。
くそっ、内心悪態をついて相手の首元に顔をうずめる。

「男同士だ」
「抵抗もないくせに」
「準備もいる」
「道具は持ってきてる。方法もお互い知ってるだろ」
「俺は抱かれたくないぞ」
「ならオレを抱いてよ」
「…」
「他には?」

乗っかったまま、分身に尻を擦りつけられる。
言葉を発する事に動く白い喉元がやけに艶かしく見えた。おいしそうだ、本能がぽつんと呟いた。

「…嫌だって言っても、やめてやれない」

蚊の鳴くような声で最後の抵抗を見せれば、ぎくりと体を固まらせたのがわかった。ああ、引かれた。そう思った俺の背中を何かがなぞる。

「いいって言わせるくらいオレを乱して」

唐突に離れていく重さとぬくもりに、何事かと顔をあげた。俺より一回り細い体が素早く扉の向こうに消えていったのを見て、思わず笑い声がこぼれてしまった。「なんだそれ」
そうだ、俺は風呂に入ったけど、あいつはまだだったな。準備もあるから出てくるのに時間がかかるはずだ。

据え膳食わぬはなんとやら、今日はありがたく食わせてもらうことにしよう。手加減なんかしてやらないぞと聞こえないままに言ってやった。このあとが楽しみだ。
しかし、どうしようか。あいつの触った名残がまだ分身に残っているのだけど。

「…抜いとこう」

フライングしてしまったが、それでもその夜は最高だったと言っておく。

全ては欲望の権化
(若気の至りって怖い。もう若くないけど)