かいじゅう

あなたはいつも笑うから私は気付かないふりをしていた。
例えば、人当たりが良いように見えて全く他人に心を開いていないとか、好きです捨てないでと縋り付いてくる癖に私を見ていない瞳とか。
いつまで泥濘に浸かっているつもりなんだろう。
電話をしたら3コール以内に出なさい。
命じた通りあなたは返事をする。例え深夜でも。

「寂しいんですか?」
「余計な事は言わずに来て」

10分以内に、と付け足した。無理難題だった。電車で1時間と少しの距離だ。まして彼女は免許を持っていない。ただ酷くしたい為の口実に過ぎなかった。
それなのに、到着は随分と早かった。

「タクシー使いました」

一体幾ら払ったのか。当たり前のように笑顔向けられて頭痛がした。こうして従順なふりをしていたら良いと思っているの。お金を使って身体を差し出してあなたは何の利点が。
気付いたら其の髪を引っ掴んで壁に叩きつけていた。骨がぶつかる嫌な音がした。壁伝いにずるずると身体を落として床に転がるあなたの頭を踏み潰す。髪の隙間から私の機嫌を窺う瞳と視線が合う。
鳥肌が立った。

「気持ち悪い、見るな」

鳩尾を蹴り飛ばす。汚物が汚物を吐いた。そんなの許すわけがない。
頭を押さえ付けて綺麗に舐め取らせる。
涙、血、吐瀉物、唾液。そんなものでぐちゃぐちゃだった。

「可哀想な子」

あなたはうっそりと目を細めた。
私はあなたが望む言葉を吐いてあげている。本当は、本当は。口付けて撫でてあげたいのに。
あなたは優しく触れられるのが嫌いでしょう。だからこんな私に縋り付いてくるんでしょう。好きと言えばあなたは離れていく。
私はいつも焦燥していた。

「もう会いにきません」

喉の奥が引き攣った。

「なんで、」
「大切にしてくれる人が出来たんです。優しくされるのが怖い自分に、穏やかに触れてくれる人が。やっと貴女の事が忘れられる気がする」

あなたはいつも作り笑いだと思っていた。なのに、今、幸せそうに話す表情は私に殴られていた時と変わらない笑顔。
あなたを見てなかったのは私の方だった?もっと早く手を伸ばしていれば、握り返してくれたと言うの。
今更、優しくする方法なんて忘れてしまったのに。
私は大切なものをなくしました。




Twitterの診断メーカー書き出しと終わりで書いたもの。



ALICE+