メリーバットエンド

リストカットの癖が酷くなっていた。
脂肪が見えるほど深くまでカッターを突き刺したけれど、足元に血の海ができただけで、いつもと変わらなかった。
睡眠薬を飲んで死にたいと漏らしたら、
「私が居るのにどうしてそんなこと言うの?」とカノジョに泣かれた。

面倒だった。
すべてが。
確か、ワインを何本か開けた記憶はある。
ふらふらと夜の道を歩いた。
カンカンカンと脳みそに響く踏み切りを越えて、そして。
私の意識は目映い光の中に消えた。








目を開けると病室にいた。
まず、失敗したんだと思った。最悪だ。
私は列車の線路に飛び出したはずなのに、こうして息をしている。
目蓋を開けて、見たい方向に眼球をギョロギョロと動かせる。
ベッドに手を、着いて身体を起こせ――な、い。

起き上がれない。

おかしい。
半身の感覚がない。
そればかりか、痛い!
神経が刺されているような!骨が悲鳴をあげているような!とにかく熱が溜まっている感じがする。
ふと、自分に被せてある真っ白のシーツの膨らみを見た。どうしようもない違和感。
途中からシーツはベッドに張り付いて、ぺしゃんこになっており、膨らみがなくなっている。

ドクンッ、
ドクンッ、
ドクッ、
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、――

耳の奥がうるさい。心音が早く大きくなっている。

そんなことあり得るはずない。
思いきり身体の上からシーツを退けた私は、気が遠退いていくのを感じた。

見慣れたはずの両脚が、なかった。

切断された短い切断面には包帯が巻かれ、管が出ている。血液がにじんでいるようだった。

それでも自分が失神するのを許さなかったのは、鋭い痛みの所為なのはもちろん、
来客者が来たからだ。

「目が覚めたのね。気分はどう?」

自分の下半身を見て固まっている私に構わず、病室に入ってきたのはカノジョだった。

「…っねえ、ねえ!!こ、こ、これどうなってンの!?わ、わた、あ、…私の脚は……!」

「良かったね」

「……は?」

「生きてて」

カノジョはいつもと同じように、きれいに笑った。
私は今度こそ悲鳴を上げた。

死にたいと思ったことが、罪だった?



ALICE+