大樹の節 15の日
一人で使うには広すぎる部屋だった。
大修道院にあった大司教の部屋よりもはるかに。
目線の高さには窓がいくつか並んでいて、高い天井の近くにも日取りのための窓がある。淡く色付いた磨り硝子は優美に縁取られているが、どこか異国情緒も見られた。
目線の高さの窓には上等な絹のカーテン、落ち着いた臙脂色の壁に精緻な絵画、艶のある胡桃色のテーブルに大きな革張りのソファ。天蓋付きの大きな寝台と衣装部屋、そして浴室だけが個人的な空間となっているようで仕切り等はない。
( 豪奢な部屋だけど、客人扱いではなさそう… )
扉の内側にはメイドが立っているのだが恐らくは女騎士だ。御用があれば何なりとと言いつつ、その目にもてなしの笑顔はない。
「……ねえ、」
メイドに呼びかけると「はい」と短く返ってくる。浅く礼をして私の言葉を待つメイドは、確かダリアと名乗っていた。
「この部屋は広すぎて落ち着かないよ。それに、暇だ」
「何か手慰みになるものをお持ちしましょうか」
「本がいいかな」
「かしこまりました」
ダリアは深く一礼すると扉を開けた。そのまま出て行くのかと思いきや、外にいる騎士に本を持ってくるよう伝えて扉を閉める。
( やっぱり出て行くことはないのか……というか部屋に対する苦情は流されたな )
これからは、こんな監禁生活が続くのだろうか。
窓から見下ろした遠くにはアンヴァルの美しい街並みがあったが、それもどこか絵画の中のもののように思えた。
◇
ガルグ=マク大修道院が陥落して、もう一節は過ぎただろうか。
雪もちらつく季節だったあの時の大修道院は、春が近付いてきた今どうなっているのだろう。昨年の今頃は、孤児院の子供たちと山菜をとりに行ったり、騎士団と次年度の生徒の情報収集をしたりと忙しくていたのに。
( 山菜のよく穫れる場所はアビスに伝えてるし、来節には山頂からの雪解け水も流れ込んでくる… )
あの場に残るのは地下の住民のみだ。地上と地下は不干渉であるが、私はそれを無視して支援してきた。アルファルドがいなくなってからは、より手厚く。それがなくなったところで死にはしないだろうし、エーデルガルトにもアビス住民に手を出すなと伝えている。
( きっと私ができるのはそこまでだ。今後は勝手に生きていってもらうしかない )
ユーリス達に後を任されたので後ろめたくはあるが、もうこうなってはどうしようもない。
( ユーリス達はどうしてるだろう…戦争の煽りを受けてないかな )
疑問は幾つもあった。
フォドラの情勢やセイロス騎士団の行方。クロードやディミトリをはじめ、生徒達は無事に帰れているのか。帰れたとして今も無事なのか。あとを託されたベレトは?
( ……それに、大司教も… )
エーデルガルトにとって大司教は最も邪魔な存在だろう。しかし処刑するには、レアは影響力が大きすぎる。それはアドラステア帝国内外問わず存在する信徒や、セイロス教を国教とするファーガス神聖王国。
( ……そして、わたしたちにとっては…特別に )
だからこそまだ死んではいないのだと察せるが、私のように良い部屋を与えられて元気に動き回れるわけではないだろう。あの戦いでの傷はまだ癒えてないはずだし。
「……ん?」
窓から見下ろしていた宮城前の玄関口。いつも兵士や貴人が忙しなく出入りするそこは俄に騒然とした。
聞き取れはしないが怒号らしきものが響き、ガシャガシャと鎧が騒々しくかき鳴らされる。
「…あれは……」
宮城内から転がるように出てきた貴族が、門番らしき兵士に止められ、追ってきた騎士に囲われ捕縛された。従者らしき数人も捕縛されていて、あっという間にどこかへ連れて行かれる。
「ねえ、ダリア。今のは何?帝国貴族が捕らえられたようだけど」
「……皇帝陛下は現在、不正貴族の排除を行っております」
「…え?他国に侵攻しようって時に……ああ、いや、そうか」