ユーリス


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ユーリスが青獅子の学級の生徒だった頃。
ローベ伯の養子として最低限の学校生活を送っていたが、実のところ彼はもうひとつの顔も持っていた。


「……報告、ごくろうさん。次の指示は明日の夜に出す。それまで敵の動きを見逃すなよ」
「ああ、わかった。……お頭も、せいぜい学生生活を楽しんでくれ」


お頭と呼ばれたユーリスは、部下の揶揄のような皮肉のような激励に顔を顰めて背を向けた。

ユーリスは器用に貴族学生を演じられるが、好きでそんなことをしているわけではない。それをわかっていて揶揄うのは、年若なユーリスに対する気安い情だろう。ユーリスをお頭と呼び彼に付き従っていても、部下たちは生真面目な忠誠心だの責任感だのは持ち合わせていない。

( ……何があろうと付いていく、とかじゃねえ。ただ、互いに利があるだけ )

そんな綺麗な連中ではない。はぐれ者に落伍者に悪人…真っ当ではないものたちの集まりだ。それらにお頭と呼ばれたユーリスもまた、真っ当なものではなかった。



人々の寝静まった真夜中。弱い月明かりに照らされた家々の屋根の、その下に身を潜ませながら歩いていく。
暗闇であろうとその足取りは確かで、恐れも不安も感じさせない。それどころか足音も布擦れの音さえも控えている忍び足は、まさに暗闇に生きるものだった。

( ……ん?話し声…? )

ふとその足を止めたユーリスは、静謐な夜に耳を澄ませる。少しして、その音は徐々に近づいてきた。


「………は、適正じゃな……、……ほどこし…、………」
「…は、…に良い顔をして……で、………ご挨拶、兼…だ」


密かで途切れがちな声は、これまた真っ当な話ではなさそうだ。同業者であれば、表通りを歩きながら話したりはしないはず……ということは、獲物かもしれない。
ユーリスは収穫を得られそうな気配にほくそ笑み、細い路地の影に紛れた。


「教団には、……ない。今は帝国の……家の件で、……懸念がある」
「ああ。だが……は、地上とは不干渉なはずだろ?」
「そうだよ。とはいえ、あそこの財政は良くも悪くもぎりぎりを保ってなきゃいけない」
「なぜ?」
「私の財布に直結してるから」