正しき手順と手続を
※祓本五条ネタ
秋も深みを増してきた10月下旬。
テレビやネットニュース、SNSではある話題で持ちきりだった。
”お笑いコンビ 祓ったれ本舗の五条悟が結婚を発表”
”人気芸人のハートを射止めたのは学生時代からの友人Aさん”
”ファンの間に広がる「悟ロス」”
《悟が結婚したとかムリなんだけど…立ち直れない…》
《私たちの悟くんが…明日仕事休も…》
《学生時代からの付き合いには勝てない…》
《推しの幸せは私の幸せ…だけどつらぁ…》
そんな声が街のいたるところから聞こえてきた。
◇◇◇◇
―――祓ったれ本舗
今やテレビで見ない日はない程の人気芸人だ。
養成所時代からお笑いのセンスが光っていて、デビュー後間もなく参加した新人レースでいきなりの優勝。その後もバラエティー番組などで活躍し、現在テレビ・ラジオを含めたレギュラー番組を10本以上持つ2人は最強コンビとも呼ばれている。
特徴と言えばコンビそろっての高身長に俳優顔負けな整ったビジュアル。故にファンの大多数が女性で劇場の出入待ちも祓ったれ本舗の列だけ桁違いだと言われてるほどだ。
それだけに女性関係の噂が絶えず、特に五条に関しては各地方に恋人がいるだの実は既婚者なんじゃないかなど囁かれる噂は数しれず。だがどの話も確たる証拠はなく週刊誌もスクープが撮れず噂だけが独り歩きしている状態だった。
そんな五条悟の結婚。それは自身のラジオ番組、しかも番組も終わろうとしているエンディングで唐突に発表された。
2人のラジオは提供クレジットの読み上げ後、1分ほどのフリートークを挟んで番組が終了する。ラジオとしてはお決まりの流れだが、2人のラジオはその数十秒の間に爆弾発言(主に五条)や発表間近の情報をポロリと喋ってしまったり(これも主に五条)する為この時間のためだけに聞いてるというファンもいる。
もちろん放送後、事務所のお偉いさんにこっ酷く叱られるまでが一連の流れであるが。
「〜の提供でお送りしました。さて、番組もエンディングの時間となりました。来週は番組から重大発表があるって事だけど…」
「あ、そうだ、俺も発表ある。傑、ってかマネージャーにも言ってなかったんだけどさ」
「うん?また何かやらかしたのかい?」
「何かってなんだよ、最近は大人しいだろ?」
「最近は、ね」
ははっと夏油の笑い声が響く。そう、最近の五条は大人しかった。
女性関係の噂がパタリと無くなっただけでなく、遅刻常習犯な男が入り時間の15分前に到着したり、新人スタッフがへましても気をつけろよ〜としか言わなかったり。
そんな姿にマネージャーである伊地知は「五条さんが急成長してる…」と目に涙を浮かべていたのはつい最近の話。
だからこそ、誰も彼もが油断していたのかもしれない。
「で?何をしてしまったんだい?」
「だからしてねーっての!あー…俺、結婚すっから。って事でまた来週!ばいばーい!」
「「…え?、は!?」」
ラジオを聞いていた私は聞こえてきた言葉に思わず大きな声を上げる。スピーカーからは軽快なインストルメンタルと夏油さんの驚きと困惑の声が流れ番組は終了した。
直後からSNSが荒れに荒れたのは言うまでもなくジュジュッターには《祓本ラジオ》《五条悟結婚》といったワードが既にトレンド入りしていた。誰もかれも同じような反応を見せていて様々なカップルの熱愛をスクープしてきた芸能レポーターも『はぇ!?』と謎のツイートをしたりと兎にかく大混乱だ。
震える手でツイートを見てると手元のスマホから着信音が鳴り響く。表示される名前に恐る恐る通話ボタンを押し耳に当てると「お、起きてた」と先ほどまでラジオから流れてた声が耳に入ってきた。
後ろではいろんな人の声が聞こえて騒然としているのは一目瞭然。
いや、一聴瞭然?そんな言葉があるのかは知らないが。
「放送聞いてただろ?…まぁ、そういうことだから」
「いや、あの…え?待って待って状況が理解できないんだけど…」
「はぁ?ちゃんと聞いてなかったのかよ…。結婚するから」
「うん、それは分かった。分かったけど、えっと…誰と?」
「寝ぼけてんの?…んなの、オマエ以外に誰がいるんだ、よ…」
ラジオでは平然と喋っていた癖に今は語尾が尻すぼみになってる。勝手な事をして申し訳ないと思ってるんだろう、局内の通路の隅っこで大きい体を小さくしながらぼそぼそと電話してる姿が想像できる。
電話口から夜蛾さんの「悟ー!!」って大きな声が聞こえ、「やっべ」と焦った声のあと「ちゃんとした話は帰ってからするから」と言い残して電話は切れてしまった。
スマホを握ったまま暫く呆然としサイドボタンを押して真っ暗になった画面に明かりを灯す。
待受画面には真っ白な毛並みの愛犬の写真、時刻は3:15を表示している。そして日付を見てある事に気付いた。
今日は悟と付き合って10年目の記念日だった。
彼がこの家に帰ってくるまであと1時間。
それは今まで生きてきた中でひどく長く、そして短く感じる時間だった。
※2021/10/5 Twitter掲載
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