ポッキーゲーム
「これ、五条の力でなんとかならないの?」
「無理だね、条件をクリアしないとここから出られないようになってる」
どこを見ても真っ白い壁に覆われた部屋。
ついさっきまで討伐任務をこなしていたはずだが、呪霊が放った強い閃光に一瞬目が眩み次に目を開けるとこの部屋に立っていた。
隣には何故か別任務に行ってるはずの五条がいてお互い「何やってんの?」とハモったのが少し前の出来事。
話を聞くと五条も祓いきる前に辺りが強い光に包まれて気付いたらここにいたらしい。呪力は感じるため、十中八九呪霊による仕業だが、脱出を試みても頑丈な壁にはヒビ一つ入らなかった。
「茈とか使えば出れるんじゃない?」
「何言ってんの、こんな狭い所で使ったら君も死ぬよ?」
「そこはほら、無下限の中に入れて貰えば大丈夫でしょ?」
「僕の術式なんだと思ってんの」
アイマスクで隠れた表情はよく読み取れないがたぶん呆れた顔をしてるであろう五条に頭を小突かれる。
痛いなーとそこを撫で、とふと目を横に向けると壁には黒色の文字が表示されている。
【ポッキーゲームをしないと出られない部屋】
「…やっぱあれやるしかないの?」
「だろうね。ご丁寧に色んな種類用意されてるし」
部屋の真ん中にある白いテーブルの上には銀色のトレーに見慣れたお菓子が並べられている。普通の味だけでなく、極細やストロベリー味にプリッツ、チョコのコーティングが厚めなお高いやつもある。
「でもなんでポッキーゲーム…」
「今日11日だからじゃない?」
「あー…ポッキーの日だっけ」
「そうそう、悠仁達もコンビニで大量に買ってたよ。…最初はこれかな」
他愛もない話をしながら並んだ内の1本を取ると口に咥えこちらに振り向く。因みに毒や変なものは入ってないようで、よくわからない空間にある食べ物を何の躊躇もなく食べるのを見た時はやっぱり最強呪術師はイカれ具合も最強だと思った。
グイっと寄ってくるから肩を押し少し距離を取る。
「ちょ、恥ずかしいから目瞑ってて…」
「んー」
分かったと頷き催促するように咥えたままのポッキーを上下に振るからドキドキしつつ口に含む。てか、五条アイマスクしてるから目閉じてるか分からなくない?って思った時にはサク、と形のいい唇の奥でポッキーが齧られる。
ここまで来たらもうやるしかないと腹を括りぎゅっと目を閉じ一口齧った。食べ進めると目を閉じてても五条の顔が近付いてくるのが分かり、恥ずかしさで顔が熱くなってくる。ふと彼の息が肌に触れた気がして驚き口を離してしまった。
でもポッキーゲームはやった訳だからクリアだ…!
「…え?」
目を開けた先には変わらない真っ白な部屋が広がっていた。
◇◇◇◇
「なんで…ポッキーゲームやったのに出られないの!?」
「うーん、クリアの基準があるとか」
「うそ!?そんなの書いてないじゃん!」
「あのさ、相手は呪霊なわけ。こっちの常識とか通用する訳ないでしょ」
顎に手を置きうーんと考える五条を横目に未だ熱の引かない顔を扇ぐ。目を閉じてたから分からなかったけど、下手したらキス出来るんじゃって所まで近付いてた気がする…。
「まぁ、これだけ種類があるって事はこのどれかが正解って事でしょ」
「…全部やるの?」
「当っ然。君もこんな所から早く出たいでしょ?」
両手にポッキーを持ちニカッとした笑みを浮かべる五条は少しだけ悪魔にも見えた。
◇◇◇◇
「ん…」
「これも違うね。じゃあ次これ」
あれから極細、プリッツと片っ端からやってみたがどれも外れらしく私たちは部屋の中に取り残されていた。残りはちょっと短めの高級ポッキー。
あと1回あの恥ずかしさに耐えれば出れると自分を鼓舞し1本取ると端を咥え顔を上に向ける。
「やる気満々じゃん。そんなに僕とのポッキーゲームにハマっちゃった?」
揶揄うようにゆるりと口角を上げると「じゃあ、本気出しちゃおうかな」と呟きアイマスクに指をかけゆっくり降ろす。逆だっていた髪の毛が重力に従って本来の向きに直り、少し長めになった前髪が五条の青い瞳にかかる。
──初めて会った時からアクアマリンのような綺麗な瞳が好きだった。
久々に近い距離で見たその瞳に胸が高鳴り自分の服をくしゃりと掴む。
「な、んで取るの…」
「んー?なんでだろうね」
細かいことはいいじゃん、と反対側を咥える。ただでさえ短いから最初から顔の距離が近く、見つめてくる視線に耐えられず目を閉じる。
ふっと笑われたと思うとサク、サクと齧る音が聞こえあっという間に唇が触れそうな程まで顔が近づく。ポキッと2人の間で折れ齧ったそれを咀嚼して飲み込む。終わった、これで帰れると思う反面少しだけここから出たくないなんて思う自分もいた。
…だけど、真っ白い部屋は壁に扉が出来るわけでも壁が壊れるわけでも無かった。
「なんで…?」
様子の変わらない部屋に呆然としていると「名前」と呼ばれ振り向いた瞬間、五条に抱きかかえられテーブルの上に座らされる。
彼の行動に戸惑っている私の体を挟むように横に手をつき一番最初に食べたポッキーを咥えて顔が近付く。
「え、それやったけどダメだったじゃん…」
「ひいから、ふぁーん(いいから、あーん)」
言われるがまま咥えるとサク、サクと食べ進めてくる。今までゆっくりだったのに急にがっついてくるから驚いてバランスを崩し後ろに倒れそうになるのを片腕で支えてくれた。目の前の状況に追い付けず、気づくと目の前にはドアップの五条が。
その表情は今まで見たことない柔らかい眼差しで微笑んでいるからドキリと胸が弾む。頭を撫でられ後頭部に手を添え背中を支える腕に力が入り、そのまま抱き締められ2人の唇が重なった。
途端に辺りが眩しくなり目を細める。触れていた唇が離れ五条が何かを言っていた気がしたが、その言葉を聞き取ることなく意識が遠のいた。
◇◇◇◇
「んっ…」
上下に揺れる振動に意識が引っ張り上げられ目が覚める。ぼやけた視界に人影が写りグラグラと揺れる。
誰かに抱きかかえられてる…?
混濁した意識が次第にはっきりとし、見上げた先には白髪に黒いアイマスクをした男がいた。
「ご、じょ…?」
「あ、起きた。よく寝てたねー」
「あれ、何で…」
「君に付いてた補助監に応援呼ばれたんだよ。僕も忙しいのにさ〜」
何でも任務に向かった後なかなか戻ってこない私を心配して近くで任務にあたっていた五条が応援として呼ばれたらしい。
いざ向かうと既に呪霊は祓われた後で倒れていた所を発見され、送迎車に戻る道中だった。
あれ…でもさっきまで五条と…。
「…っ──!!」
脳内に蘇る光景に羞恥の念が全身にみなぎりバタバタと動くと「危ない、動かないで」と強く抱きかかえられる。
「え、待って…私たち…き、き…」
「き?何言ってんの?」
「いや、さっきまで真っ白い部屋にいて…」
「何それ、夢でも見てたんじゃない?」
「ゆ、め…?」
「そ。僕がついたのはついさっきだし、倒れてたって言っても気持ちよさそーに寝てたからね、君」
夢?あれが?確かに状況的にはありえないけど、呪力も感じていたし何より触れた唇の感覚は確かにあった。夢にしてはリアルすぎる。けど五条の表情は(アイマスクで分からないが)いつもと変わらない。ほんとに夢だったのだろうか…。
ぐるぐると考えを巡らせていると補助監督の待つ場所まで戻ってきた。後部座席に乗せられ扉を閉めようとする手を掴む。
「五条は乗らないの?」
「なに、一緒に乗ってほしいの?せっかくだけど次の任務が入ってるからね〜。あ、帰ったら硝子の所行って何もないか診てもらってね」
いいね、絶対行くこと、と念を押され扉を閉められた。エンジンが掛かり動き出す車内からだんだん離れていく五条を見るとひらひらと手を振っていた。姿が見えなくなると椅子に深く座り大きく息を吐く。
じわじわと思い出される夢の内容に言い知れぬ恥ずかしさが沸き上がり両手で顔を覆う。
五条の今まで見たことない柔らかい表情と触れる手の優しさ。自分の気持ちは自覚してるし、それを伝えようとかは思ってなかった。
けど、
「あんなの、五条に好かれてるみたいじゃん…」
暫くはまともに彼の顔を見ることが出来ない気がした。
◇◇◇◇
小さくなっていく車を見送るとポケットの中でスマホが震える。大方相手は分かっているが無視すると永遠と鳴り続けるから仕方なく取り出すと一緒に紙切れが落ちた。それを拾い上げながら通話ボタンを押す。
『ご、五条さん!今どちらにいらっしゃるんですか!?』
「伊地知うるさい。あとでマジビンタ」
『えぇ!?と、とりあえず早く戻ってきてもらえませんか?』
「はいはい」
適当に返事をして電話を切りポケットに戻す。紙切れに綴られてる文章を今一度読み直し口角が上がる。
「これを見せたらどんな反応するんだろうね」
きっと驚きの表情を見せてくれるだろう。泣いてくれたりしちゃって?そんな姿を想像しながらくしゃりとメモを握りしめた。
【ポッキーゲームをしないと出られない部屋】
― 脱出条件 お互い好きな相手とキスする事。 ―
※2021/11/11 Twitter掲載
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