檸檬泥棒
どんな事もハジメテの時は緊張や不安が付き纏うものだ。例えば初めてのアルバイト。どんな先輩がいるんだろう、ちゃんと仕事を覚えられるかな?とドキドキするし、イメチェンをしたいと初めて髪の毛を染める時は自分に似合うだろうかと少し不安にもなる。
それらは"初体験"と称され、人生でたった1度しか訪れない。そんな初体験を今日、彼の部屋で迎える事になったんだけど…。
「す、傑くん待って!やっぱりまだ心の準備が…!」
「だめ、どれだけ待たせる気だい?君から言い出したんだ、そろそろ諦めてくれ」
ベッドの上に並んで座る彼から距離を取ろうとすると腕を捕まれ大きな手の平が頬を包む。
促されちらりと見上げると目を細めて笑みを浮かべる彼が「いいかい?」と首を傾げる。わたしよりも大きいのに仕草が可愛くて初体験の緊張とは別で鼓動が早くなる。
「わ、分かったから!でも…その、痛い…んだよね?」
「初めてだとちょっと痛みを感じるかもしれないね。人によっては血が出るって言うし」
でも、大丈夫。と囁くと傑くんは頬から手を滑らせ耳たぶをふにふにと摘む。ゾワゾワとした擽ったさが走り肩を竦ませるとくすりと笑われた。
「痛いのはほんの一瞬だから」
「うん…あ、でも…」
「……名前、おいで」
「わっ…!!」
痛い。血が出る。そんな言葉に決心が揺らいでると急に体が浮き上がった。傑くんに抱えられたと分かったのは彼の膝の上に座らされた後で、傑くん!?と声を上げると逃がさないと言わんばかりに背中に腕が回る。
「もう、こうでもしないとさせてくれないだろう?明日から私も長期の任務が入ってる。するなら今日がいいとは思わないかい?」
「そうだけど…やっぱり、ちょっと怖いよ。だって初めてなんだもん」
「なら目閉じてていいよ。悪いようにはしないから私に任せて」
安心させるように微笑む傑くんにコクリ、と頷き目の前にある制服のシャツを掴んで目を閉じる。
──もう、全部任せよう。
こういうのは何だかんだで経験者が上手く導いてくれるものだから。
「もうちょっと顔上げれるかい?…そう、いい子だね」
いつもより近い所で聞こえる彼の声に緊張感が高まり体が強ばる。言われた通り顔を上げると耳元にカチャリとプラスチックの様なものが宛てがわれた。
「いくよ」
心地よいテノールが鼓膜を震わせ、恐怖心が幾分か安らぐもやはり怖い。無意識にシャツを掴み直し来る痛みに構えていると名前を呼ばれる。
瞬間、ふにっと柔らかく温かいものが唇に触れそれに気を取られてる間に、バチンっと耳元で大きな音が響いた。
「えっ…すぐる、くん…?」
驚いて目を開くとゆるりと口角を上げ「よく似合ってるよ」とじんじんと痺れる耳の縁を指先が這う。
「おや、耳が赤いね。痛むかい?それとも…」
含みをもった笑みにぶわっと熱をもつ。その熱はピアスを開けたからか、はたまた自分自身の内側から湧き上がってきたものか。
答えは分からないけど、ハジメテのピアスはやっぱり緊張した。
「…キスされるとか聞いてないです」
「すまない、待ってる顔が可愛くてつい。ナマエの初めて2つも貰ってしまったね。痛みはまだあるかい?」
「ううん、もう大丈夫。」
「よかった。それにしても君にピアスを開けて欲しいと頼まれた時は少し驚いたな」
「彼氏に開けてもらうの夢だったから…」
「可愛い夢だ、叶えてあげることが出来て光栄だよ。流石に人のピアスを開けたこと無いから少し緊張したけどね」
「元カノとかにしてあげた事ないの?」
「ないさ。君が初めてだよ」
「じゃあ…わたし傑くんの初体験貰っちゃったんだ」
「…っ!?その言い方は語弊を生みそうだからやめようか」
「???」
※2022/7/27 Twitter掲載
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