秘密がバレた日



 お腹にずりしりとした重みを感じて目が覚める。
 目の前に広がる室内はカーテンを閉め切っているため薄暗い。冷たい空気でひんやりとした顔とは対照的に背中に感じる温もり。毛布だけでは到底味わえない暖かさにあぁ、今日も無事だったんだと安堵する。

 「おかえり」

 腹部に回された温もりにそっと触れて呟く。重みの正体は私を抱き寄せ寝息をたてる悟くんの腕だった。昨日寝たのは夜中の2時過ぎ、ベッドに入り1人寂しく眠りについたから彼が帰ってきたのはその後だろう。

 起こさないように寝返りを打つとそこには鼻筋の通ったご尊顔。気持ちよさそうに眠っている。
 透き通った白髪に肌荒れ知らずの白い肌、ぷるぷるとした唇はアラサー男子とは思えないほどの美貌で改めて何でこんなにカッコイイ人と付き合えてるのかと不思議に思う。

 「悟くんは今日も国宝級ですねー…」

 『恋は盲目』なんてよく言うが誰がなんと言おうと私の彼氏は世界一カッコイイ。寝顔までカッコイイんだ、間違いない。…性格はちょっとイジワルだけど。

 「…起きないでね」

 さらさらとした前髪をそっと退けて額に触れるだけのキスをする。ショートスリーパーな悟くんは基本、私より起きるのが早い。
 目が覚めておはようのキスを貰うと「可愛い顔してどんな夢見てたの?」なんて聞かれる事も多々。だから彼の寝顔を見れるのは珍しい。

 そんな珍しい時にこっそりやってるこの秘め事キスは本人も知らないはず。と言うか知られてたら恥ずかしすぎる。

 「今何時だろ…」

 しばらく寝顔を堪能した後、枕元のスマホに手を伸ばし時間を確認する。ロック画面はこの間デートした時に撮ったツーショットにしている。開く度に楽しかったこの日の事を思い出しニヤニヤしてるのを硝子に揶揄われたのは1回や2回じゃない。
 2人の上に表示された時刻は6:50を示していた。今日は随分早く目が覚めてしまったようだ。

 「二度寝するか…んー…どうしよう…休みだしなぁ…」

 今日は偶然にも2人揃って休みが被った貴重な日。記念日やお互いの誕生日に合わせて無理やり休みを合わせる事はあるけど、なにもないただ普通の日に休みが重なる事はあまりない。
 故に昨日から今日は何をしようか、何処に行こうかとひとりワクワクしていたら寝るのが遅くなってしまった。付き合って何年も経つのに未だに浮かれた考えを持つ私に悟くんは呆れちゃうだろうか。
でも仕方ないよね。

呪術師という特殊な環境に身を置き、いつ自分がどうなるか分からない状況の中で誰かを好きになって、その人に好きになってもらえる。それだけでも凄いのに同じベッドで眠って朝を迎え、おはようのキスが出来るなんて奇跡的だ。

 「生きて帰ってきてくれてありがとう」

 もう一度額に唇を落とす。擽ったいのか「んー…」と唸る彼に思わず笑みがこぼれる。
 悟くんはとても強いから過度な心配はしてないけど、こうやって2人が住む家に帰ってきてくれて彼に触れて体温を確かめて、そこでやっと安心できる。

 「なんか目冴えちゃったな…」

 悟くんの顔を眺めていたらいつの間にか眠気は消えてしまった。折角の休みだし、たまには手の込んだ朝食でも作ろうかな。
 疲れてる体にはやはり甘い物?だったらパンケーキかな、生クリームあったし悟くんのは増し増しにしてあげよう。頭の中でメニューを決めゆっくりと彼の腕の中から抜け出す。
 1月の朝はとにかく寒く、さっきまで暖められていた体は冷気で一気に冷えぶるりと体が震える。

 「さっむ…」と自分の腕を摩るとベッドの上に置かれた彼のカーディガンが目に入る。それは薄手なのに暖さが抜群で肌触りも良いから悟くんお気に入りの一枚。前に同じデザインのレディース物を貰ったことがあるけど、お値段にビビってあまり着ていない。クローゼットを開ければ自分のも入っているが、そこまで歩くのも億劫になるほど室内は冷えている。
 今だけ拝借させてもらおう、多分怒りはしないから…そう思いながらカーディガンに袖を通す。袖口は指先まですっぽり覆われ鼻を近づけると悟くんの匂い。まるで後ろから抱きしめられるような感覚に恥ずかしさと愛しさでふふっと笑い声がもれる。
 長い袖を何回も折ってやっと見える自分の手を眺めて思った。

 「悟くんやっぱ大きいな…」

 分かってはいたけど、彼の服を着て改めて実感する。
 汚さないように気をつけよ…とベッドから降りようとした瞬間、後ろから腕を捕まれ引っ張られる。
 声を上げる間も無くベッドに引きずり込まれ気付いたら眠ってるはずの悟くんに見下ろされていた。

 瞼で隠れていた碧眼はぱっちりと開いていて、その口元にはにんまりとした笑みが浮かんでいる。

 「お、はよう…起こしちゃった?」
 「おはよう。ちょっと前から起きてた」
 「うそ、いつから?」
 「オマエが僕の顔国宝級〜とか言ってる辺りから?」
 「え?」

 …うそ、あの時起きてたの?

 「あんな事言ったと思ったらキスしてくるし挙句の果てに僕の服着て可愛く笑っちゃってさ〜僕のことどうしたい訳?」

 そう言いながら両肘をついて覆いかぶさってくる悟くん。
 「近い!」と反抗すると「近付いてんの」と笑われる。
 あのご尊顔が10センチにも満たない距離に迫って恥ずかしさに襲われる。何年経ってもこの顔に迫られるとダメ。むり。カッコよすぎる。
 思わず片手で顔を隠すと「ねぇ」と声が降ってくる。

 「顔、見せてよ。オマエの可愛い顔見たくて任務頑張ってきたんだよ?僕ご褒美欲しいなぁ〜?」

 柔らかい声とは裏腹に少し強引に掴んだ手をベッドに縫い付けられる。向けられる瞳の奥には優しさとまだ少し残った眠気、そしてそれらに隠れるようにギラッとした熱が込められていて、数日前の情事が鮮明に甦る。

 でもだめ、今日はデートに行くんだ…!!

 「あ、朝ごはん、パンケーキにしようと思ってるから…それでどうかな?」
 「パンケーキ?いいね、名前の作るヤツ美味しいから好きだよ。甘〜いやつにしてね、生クリームは僕がやってあげるから」

 きゅっと目を細めて微笑む悟くん。
 思いのほか提案したメニューへ反応が良くホッと吐息がもれる。これで今日は平穏に過ごせそう…

 「でも、その前にもっと甘いの食べていい?」
 「…へ?」

 こちらを見つめながら髪の毛をひと房取って口付けする様は正にどこかの国の王子様みたいで目が離せなくなる。そのまま額、こめかみ、耳、頬とキスの雨が降りてきて最後にたどり着く唇。
 一旦離してから何度も降ってくる口付けは朝のおはようのキスよりちょっとだけ深くて私を疼かせるには充分だった。

 「…ね、いいでしょ?」

 耳元で囁かれる言葉が頭の中まで響きビリビリと震える。すりっとお腹を撫でる手はさっきより、熱い。

 ねぇ、と応えを催促する彼に私は頷くしかなかった。


※2021/1/23 Twitter掲載
back.