関係値改定
※香る程度の夜要素あり
蒸し蒸しとした湿気が纏わりつく8月上旬、都内のとある高校で相次いで生徒が失踪するという事件が起きていた。
調査の結果、高校近辺で呪霊を確認。除祓のためその学校に潜入していた私は無事任務を終え報告書を提出しに高専に訪れていた。
『報告書はこれで大丈夫です。任務お疲れ様でした』
「ありがとうございます。後はよろしくお願いします」
ひと仕事を終え建物内に伸びる長い廊下を歩いてると壁にかかる鏡に映りこんだ自分の姿に目を向ける。今ではすっかり見慣れた自身の姿に"まぁまぁイケてるんじゃない?"と思わず自画自賛する。
グレーのスラックスに白いワイシャツ、エンジ色のネクタイを締めた姿はパっと身長の低い男子高校生にも見えた。
そう、今回の任務先は男子校だった。
当初は別の術師が行く予定だったが先の任務中に負傷、手が空いていた私にお鉢が回ってきた。元々失踪した生徒も中性的な身なりをしていた事もあり、それなら変装して潜入しろと上からの指示だった。
と言っても私もとうの昔に学生を卒業した身、この年で制服……しかも男子高生とか色んな意味でヤバい。
絶対バレるでしょと思ったが、潜入は放課後の数時間だけ。会話もごく一部の人間のみ、かつ人目に付かない様に行動していた為か最後までバレることは無かった。
「結構気に入ってたんだけどなー……。今日でこの制服ともおさらばか」
「あれー名前 ?」
鏡を見てると呑気な声が聞こえ振り返る。
白髪に黒いアイマスク、同期の五条が「やっ」と手を上げ歩いてきた。
「五条、お疲れ」
「お疲れサマンサ〜。聞いたよーお前男子校潜入したんだって?」
「そうなの。どう?この姿、かっこいいと思わない?」
目の前でくるっと一周回ると五条は鼻で笑って「僕の次くらいにはかっこいいんじゃない?」って言ってきた。
まあ、素直に褒められるとは思ってなかったけど!
「それよりさ、お前のここどうなってんの?」
「え?……ちょ、!どこ触ってんの!!」
大きな体を屈めると徐に伸ばされた手が胸に触れ、慌ててその手を払う。普段は脹らみのあるそこも今は男装用に巻いたサラシによってぺったんこになっているのだ。
「さ、サラシ巻いてるの!」
「へぇー、サラシね。でもそれって長時間付けてると胸の形崩れるんでしょ?外したら?」
「分かってる!だから今から着替えに」
「あ、外すの手伝ってあげようか?」
五条の言葉に目を丸くする。手伝う……とは?
ふっと笑みを浮かべアイマスクに引き下ろすと宝石のような青い瞳が覗き、その中にギラリとした欲が見える。困惑する私の手を取りワザとらしいくらい爽やかな笑顔でこう言った。
「胸、苦しいでしょ?僕が楽にしてあげるよ」
「ちょっと待ってってば!」
手を引かれるまま使われてない教室に押し込まれ後ろ手に鍵を閉めると机の上に押し倒された。
抵抗の意を込め胸板を押すけど彼の手によって頭の上で纏められ、”ごじょう”と言いかけた言葉は降ってきた彼の唇によってかき消される。身を捩ろうとしても全身を押さえこまれ動けない。
「ご、じょ……んっ、……っふ」
薄らと開いた隙間を見つけると唇をこじ開け熱く柔らかい肉が口内に侵入し絡め取られる。
唾液の絡む音が響き舌先で上顎を撫でられ彼に快感を教え込まれた身体はピクンと反応してしまう。
「ん……着替えの手伝いしてあげるって言ってるんだから素直になりなよ」
「自分で、出来るってば……」
「まぁまぁ、僕に任せなさい」
にぃっと唇を横に引き上げると身体を起こされ、啄むようなキスをしながらネクタイが緩みシュルっと襟から抜ける。と同時に両手をネクタイで拘束された。
え?っと驚く私をよそ目にプチップチっとワイシャツのボタンが外れ、晒された首筋に唇が触れるとチクっとした痛みが走る。
「ご、五条!?なにして……!」
「ごめん、付けちゃった」
悪びれる様子もなくぺろっと舌を見せ再び首筋に顔を埋める。舌先を這わせベロっと舐められるとぞわりとしたものが走り上擦った声があがる。
今まで何度も五条とセックスはしてきた。でも付き合ってる訳ではないから……とお互いキスマークは付けないってのが暗黙のルールになってたし、今まで付けたいって言われた事も無かったのに何で急に……?
「……お前がさ、僕のいない所で性欲に盛った男どもの中に放り込まれたって思ったらイライラしちゃって」
「放り込まれたって……放課後の時間に少し潜入しただけだよ?」
「でも喋ったんでしょ?学生と」
「そりゃ任務の為にも情報は必要だから会話はしたけど……え?なに、嫉妬してるの?」
「してる。すんごいしてる。……若い男はよかった?」
はだけたシャツの隙間から背中に手が回り抱きしめられる。不安げな声色で問いかける五条はいつもよりちょっとだけ情けなく、見た事ない表情にちょっとだけ頬が緩む。
抱きしめる腕が強く今まで抑えてきた好意がダダ漏れしてるよ、なんて言ったら怒るのかな。
「……何笑ってんの」
「いや、情けない顔してるからつい……五条って私の事好きだったの?」
「そーだよ」
唇を尖らせ「気付くの遅くない?」と拗ねる彼の襟を引き寄せるとゆっくり唇を重ねる。
「若い子は魅力的だけどさ……」
「うん」
「私は昔から目の前にいる男にしか興味無いんだよなぁ、これが」
「……っは、それは僕の都合のいいように捉えるけど、いいわけ?」
ピクリと頬を動かし喜びを浮かべる五条。お互いそろそろいい年だし、ここら辺で関係を変えてみるのもあり……かもしれない。
返事をする代わりにもう一度唇を押し付けると肩を押され視界が反転した。
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