言祝ぎの花房






 初めて誰かの結婚式に参加したのは確か、わたしが中学2年生の時だった。その時は親戚のお姉さんの結婚式で、初めて足を踏み入れたチャペルの厳かながら暖かさが漂う雰囲気に感動したのを今でも覚えている。

 それから幾年も過ぎ、二十歳を超え大人になると結婚式に呼ばれ参加する回数も増えてきた。どの式も新郎新婦、そして参列者の幸せそうな笑顔が溢れていて、それは普段から暗い世界で呪霊と戦ってるわたしには眩しいくらいにキラキラと輝いて見える。

 『それでは花嫁様よりゲストの方へブーケパスをしていただきます!』

 今日だって友人の結婚式に呼ばれていた。司会者の言葉に立ち上がった友人はブーケを手に取ると『誰にしよっかな〜』なんて笑顔を浮かべながら披露宴会場を歩き出した。
 純白のドレスに身を包んだ友人は間違いなく今までで1番綺麗で輝いていて、本当に眩しい。そんな眩しい友人が段々こちらに近付いてきて──…。

 『名前!いつもありがとう!』
 「……えっ、!?」


 ◇◇◇◇


 梅雨の時期特有の湿気が漂う夜道を歩きながら手元に提げた紙袋を覗き込む。
 (貰っちゃった…)

 型崩れしないようにとプラスチックのケースに入れられたウエディングブーケは真っ白な花びらが満開に咲き誇り、歩く振動に合わせ揺れ動いている。

 ──ブーケパス

 ブーケトスとは違い、予め決めていた特定のゲストにサプライズでブーケを渡すという演出らしい。
 聞いたことはあったが、まさか自分が貰えるなんて思っておらず驚きながらも受け取ると『次は名前が…って言いたいけど、これは名前がこの先も笑っていて欲しいって意味だからね』と笑みを浮かべる友人に今日何度目かの涙を何とか堪えた。

 こういったものは初めて貰ったが、実際貰えると結構嬉しいんだなとしみじみ思う。まさに幸せのお裾分けだ。
 ホクホクとした多幸感に包まれながら歩いていると聞き馴染んだ声で「名前」と名前を呼ばれ暗闇の先に目を向ける。

 「…あれ、傑?」
 「やぁ、おかえり」

 小さく片手をあげそこに立っていたのは恋人である傑だった。今日は任務で帰れないと聞いていたのになぜ?と思いながら近寄ると「まだ帰ってないようだったから駅まで迎えに行こうと思ってね」と当たり前のように引き出物が入った紙袋を持ってくれた。

 「ありがとう。任務は?もう終わったの?」
 「あぁ、思ったより早く方が付いてね。結婚式どうだった?楽しかったかい?」
 「すっごく!友達も綺麗だったし料理も美味しかったよ!後で写真見せてあげるね」
 「それは楽しみだ。……そっちの袋は何だい?」
 「あ、こっち?これね実は…───」

 右腕に提げていた紙袋を持ち上げると今日あった出来事を話す。すると傑は楽しげに目を細め「素敵な友達を持ったね」と大きな手のひらで頭を撫でてくれた。

 そのまま流れるように降ろされた手はわたしの左手を持ち上げ、淡いピンク色が塗られた爪先にそっと口付けが落ちる。ビクッと肩が震え何してるのか、と戸惑うわたしを他所に今度は左手の薬指に口付けすると琥珀色の瞳と視線が重なった。

 「じゃあ…友達のためにも名前にはこれから先も笑って、幸せにならないといけないね?」
 「えっ…あ、そうだね…?」
 「まぁ、幸せにするのは私なんだけどね」
 「え?それって…」

 ぼそりと呟かれた言葉を聞き返そうとすると帰ろうか、と触れていた手を握り直し並んで歩き出す。

 ポツリ、ポツリと街灯が並ぶ夜道をヒールと紙袋が揺れる音だけが響いていた。



 それから数日後、正装に身を包んだ彼から正式にプロポーズされたのは言うまでもない。


 by ワードパレット Life goes on No.11



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