ラブショット



 テーブルの上に並ぶカラフルな3本の筒。

 一見ペンライトにも見えるそれは両方に蓋が付いたチューブで、透明な容器には羽の様なマークと"LOVE"の文字が印字されそれぞれピンク、黄色、水色のゼリーが詰まっている。

 「何味がいい?ピーチにレモン、こっちはソーダ味らしいよ」

 わたしを膝に乗せた傑はスマホの画面を見せ目を細める。画面には黒背景に目の前に並ぶ筒と同じ物が表示され、その下には白文字で"1人では飲めない、2人で飲むショット"の文字が並んでいた。

 クラブや合コンの場で余興の1つとして楽しまれてるそれは両端を咥え一方が息を吹きかけ、もう一方がゼリーを吸って食べるらしい。その説明を聞いた時は見た目の可愛さに反しなんとも俗っぽい商品が出回っているんだな、と思った。
 お酒は人並み程度に呑むし、気の許した人たちで集う飲み会などは好きだ。でもこういったものに触れるのは初めてで「試してみるかい?」と笑みを浮かべる彼に頷いたのは単純に興味が沸いたからだ。

 これが全く知らない人や付き合ってもいない人に誘われれば丁重にお断りするが、恋人同士のちょっとしたオアソビとしてならアリかもしれない。

 「えっと…じゃあレモンで」

 どの色も味の想像はつくが、ここは無難そうな味を…と黄色を指さす。傑は容器を持ち上げ中のゼリーが零れないように水平にしながら蓋を外し咥える。

 ただチューブを口にしてるだけなのにどこか色っぽく見え、ドキドキと早まる鼓動を誤魔化すように掌をぎゅっと握りしめる。
 そんなに緊張しないで、と髪をひとなでし抱き寄せられると「ん、」と差し出された飲み口をくわえようと口を開けた。

 「あ、れ…」
 「ふふ、君には大きいかな?もう少し口開けてごらん」
 「ん…、ぁー…」
 「そう、じょうず」

 思ったより飲み口が太く、うまく咥えることが出来なかった。再度口を付けチラリと目線をあげると10センチ程の距離に整った顔が迫り、透明の容器だからか飲み口の奥に赤い舌が覗きみえる。

 ゆるりと動く赤色に見蕩れていると頬に手が触れる。合図をするように頬を撫でると、ふぅっと息を吹きつけ押しだされたゼリーがとろりと舌の上に流れてくる。

 「んっ…っふ…」

 冷たいゼリーが体温で液体に戻り甘さと少しの苦みが口の中に広がり、初めての感覚に体を硬直させながら飲み込むと喉の奥がじわっと熱を持つ。最初の食感はまさにレモン風味のゼリー。なのにしっかりアルコールを感じる辺り、結構強いお酒なのかもしれない。

 「ん…食べれた?」
 「ぅん、」
 「上手にできてえらいね。…もっと食べるだろう?」

 背中に回っていた腕が下がり腰を撫でるような手付きに肩が跳ねる。私の返事を聞く間もなく口の中に流れ込んでくるゼリーを飲み込むので精一杯になり、何かに縋りたくて彼の服をくしゃっと掴むと小さな笑い声が聞こえた。

 今までだってキスしたりそれ以上の事をしてきたけど、それに負けないくらいの恥ずかしさがじわじわと全身を蝕む。羞恥心か、それともお酒に酔ったからか分からないが体の中で熱がぐるぐると渦を巻き顔だけじゃなく耳まで真っ赤になってると思う。

 どこを見たら分からず視線をズラすと優しく、でも少し強引に顔を固定され楽しげに表情を和らげる傑と目が合う。その瞳の奥にはギラギラしたものが光り、その色は情事中のものと同じでぶるっと背中が粟立つ。

 その間も遠慮なくゼリーは押し込まれ、全て飲み干すとちゅぷっと音を立てて口からチューブが離れた。

 「どうだい?初めて食べた感想は」
 「お、いしかった…」
 「それは良かった。美味しそうに食べてる君を見てたら私も欲しくなったな…」
 「ぇ、あ…じゃあ交代、する?傑みたいに上手にできないかもしれないけど…」

 テーブルに残った内の1本を取ろうと手を伸ばすと腕を引かれ視界がぐるんと回る。あっ、と声をあげた時には傑の顔の後ろに天井が見え「す、ぐる…」と名前を呼ぶと親指で下唇を撫でられる。

 「私も欲しくなったんだ…君のここが」

 肘をついてお互いの唇が触れそうなほどの距離で囁かれる艶っぽい声色に喉の奥がこきゅんっと鳴く。

 「随分と可愛い顔してるね。…私にもたべさせてくれるよね?」

 ――まぁ…はい以外の答えは聞いてあげないけど。

 纏めていた黒い髪を解きながら悪戯っぽく笑った彼の唇はお酒を飲んでいないはずなのにとても熱かった。


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