火酒を酌む
「あ〜、美味しい…しあわせ…」
芳醇な古酒の香りが漂いテーブルの上には紅色のお菓子に白いボトルと炭酸水、アイスペールが並ぶ。グラスの中ではアルコールと混ざった気泡がシュワシュワと音を立て水面を揺らしている。
遠方での任務を終え沢山の土産物を抱え自宅に帰ったのは数時間前。同棲してる名前が夕食を用意して待っててくれた。
今回の任務地は沖縄だった。南国が好きな彼女は任務で沖縄に行く話をすると必ず土産として現地のお酒を強請ってくる。
特に泡盛がお気に入りで、今回買ってきた物はフルーティーで甘みがあり飲みやすいと先程から何度もグラスを呷っていた。
彼女と違いアルコールが苦手な僕は漂う香りだけで酔いそうになるけど、幸せそうに笑みを浮かべ凭れてくる名前を見てると頬が緩む。
指通りのいい髪の毛を撫でるととろんとした目でこちらを見上げ飲みかけのグラスを差し出してきた。
「悟ものむぅ〜?泡盛、美味しいよぉ?」
「僕がお酒苦手なの知ってるでしょー?全部飲んでいいよ」
「いいの〜?ありがとー!悟、ぎゅー!」
「はいはい、おいで」
グラスをテーブルに置き膝を跨ぐように座らせると背中に腕を回し抱き寄せる。小さい頭を胸に埋め擦り寄るのは酔ってる時の癖だった。
普段はしっかり者で術師としての評価も高い名前が酔うと甘えたになるのを知ってるのは僕だけ。今まで術師同士の飲み会は何度もあったが、外だからとセーブしてるのか顔色1つ変えた事がない。
僕の前だけで見せる姿にいつも優越感を覚える。
アルコールでほんのり赤くなってる耳をふにふにと触る。耳朶には僕が誕生日に贈ったアクアマリンとダイヤモンドのピアスが光り赤く染まってる肌に映える。
柔らかい部分を触り続けていると擽ったそうに身を捩った。
「んふふ…ちょっと、擽ったい…」
「耳赤いよ、可愛いね」
「おあけ飲んでうからだもん…」
「なんて?」
「おさけ、のんでるからぁ〜!」
さらに酔いが回ってきてるのか呂律が危うくなってる。伸びかけの前髪を上げてる額はゆで卵みたいにつるんとしていて可愛い。
そこにリップ音をたててキスするとゆるりと顔をあげ目が合う。きゅっと眉間に皺を寄せてるこの顔は不満な事がある時の顔だ。そこを解すように親指で撫でる。
「あはは、シワ寄ってるよ。どうしたの?」
「ちゅーは、こっち…でしょ?」
首に腕を回し自ら唇を押し付けてきた。2回、3回と何度も口付けを交わす。唇にほんの少しだけ残ってるアルコールが鼻に抜け頭がくらりとした。
酔ってる時の名前はキス魔になる。これも僕しか知らない姿。普段は僕からしかしないキスもこの時ばかりは彼女から求めてくれる。
お酒の力を借りないとキスしてくれないけど、解けた表情で求めてくるから嫌でも気持ちは昂る。
「ね、今日少しだけ…夜更かししない?」
「夜更かし〜?んー…」
体の力が抜けたように全身で凭れてくる名前の頬を撫で耳元で囁く。「どうしようかなー」なんて言いながら段々閉じていく瞳。
…今日もだめかな。
そう思った瞬間、僕の胸元から可愛い寝息が聞こえてきた。
同い年なのに寝てる時の顔は小さい子供のようで何度見ても飽きない。起こさないように優しく抱きかかえ寝室に連れていきベッドに下ろす。
隣に寝転び抱き寄せると甘い香りが残る唇に口付けを落とす。
「おやすみ」
全身にじわじわと酔いが回るのを感じる。お酒は苦手だけど、名前に酔わされるならこの感覚も悪くないと思う。
「今度は一緒に行こうね。2人だけで」
「んー…?うん…ふふっ」
聞こえてるのか、僕の言葉に返事をする彼女に再び唇を落として目を閉じる。
腕の中の温もりとふわふわした多幸感に包まれながら眠りに落ちていった。
※2021/8/6 Twitter掲載
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