君にほろ酔い




 「お疲れ〜…って、あれ、今日は五条だけ?」
 「だけって何。こんなGLGと飲めるんだからもっと喜びなよ」
 「わーい、うれしいな〜」
 「棒読み感半端ないけど。ほら、そこ座んな」
 「ありがと〜!」

 月一恒例になった高専関係による飲み会。いつもは七海や硝子、伊地知といったメンツが集まっている飲み会だが今日は予定が合わず2人でのサシ飲みになった。

 予定の時間より少し遅れてきた彼女は今日も席に着くなりとりあえずビール、と注文をする。彼女のビールと僕のメロンソーダ、枝豆に揚げ出し豆腐、なんこつの唐揚げに焼き鳥や刺身の盛り合わせ。いつものラインナップがテーブルいっぱいに並ぶ。

 「今月もお疲れ様!乾杯!」

 お互いのジョッキをコツンと合わせる。アルコールが苦手な僕はビールの美味しさが理解出来ないけど、彼女が美味しそうに飲んでるのを見るのは好きだったりする。

 「相変わらず美味そうに飲むね」
 「美味しいよ?五条も飲んでみたらいいのにー」
 「僕がお酒ダメなの知ってるでしょ?それとも何、酔わせてどうにかしちゃいたいとか?」
 「そんなわけないでしょ」

 ケラケラと笑う彼女を頬杖をついて見つめる。ジョッキが重いのか両手で支えて飲む姿は小動物にも見えて思わず口元が緩む。

 元同期の彼女は高専卒業を機に呪術界から離れた。と言っても呪霊の認識などは出来るため、窓として時折情報提供をしてくれる。
 昨日の1級案件も彼女の報告のお陰で被害も出ず片付ける事ができた。

 酒を飲むペースも進み2杯目が空になりそうなタイミングで気になっていたことを聞いてみた。

 「そういえば今日は来て大丈夫だった訳?」
 「ん?大丈夫って?」
 「同期とは言え男と2人で飲み会とか彼氏が許さないでしょ?今の彼氏嫉妬深いって言ってなかったっけ?」

 彼氏、と聞くと彼女は気まずそうに苦笑いしジョッキを置いた。

 「…彼氏とは、別れたんだよね。最近」
 「…は?マジ?」
 「うん。なんか浮気されててさ…。見る目ないよねほんっと!」

 へへっと笑う彼女に心が締め付けられる。

 在学中から彼女の事が好きだった。けど、告白するきっかけが作れず、いざ気持ちを伝えようとした日に彼氏が出来た!と嬉しそうに報告されたのを思い出す。
 この気持ちを諦めようと適当に女の子と付き合ってみたがだめだった。

 こんな時あの子なら、これ彼女が好きそう…と常に頭に浮かび付き合っていた子にも"いつも誰かに重ねられてるみたい。"とフラれた事もあった。

 3杯目のビールが届きグビっと呷る姿はまだ吹っ切れてないようにも見える。
 俯きがちに「幸せにしてくれるって言ったのに…」と呟く彼女の頭に手を伸ばし撫でる。

 「…五条?」

 チラリとこちらを見あげる瞳はいつもより潤んで見える。失恋直後、しかも気持ちの整理が出来てない状態。

 卑怯だと思ったが、僕としては最初で最後のチャンスだと思った。

 「ねぇ」

 ジョッキを掴む手に自分の手を重ね親指でするりと細い指を撫でるとピクっと肩が震え、アルコールで少し赤くなった顔をあげる。

 長年、僕のことを"ただの同期"ってカテゴリーでしか見てこなかった彼女に意識させるには足りてるだろうか。

 「好きだよ。僕ならオマエのこと世界一幸せに出来るけど…」

 ゆっくり指を絡めるように手を繋ぎ見つめる。
 アルコールのせいかどうかも分からない程顔を赤め戸惑ったようにぱちぱちと瞬きした。


 「ご、じょ…もしかして酔ってる?」
 「ふは、うん、そうだね…」

 ―――僕はずっと前から君に酔ってるよ。




※2021/8/21 Twitter掲載



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