03


 


 「んっ……?」
 
 ふいに、パチッと目が覚めた。目の前には見慣れない天井。身体も何となく重いし喉も少し掠れてる。
 
 「おはよう、気が付いたかい?」
 「お、はようございます。あれ、わたし寝てました……?」
 「寝てたと言うより気絶してたね。5分くらい」
 
 にゅっと視界に入ってきた彼の姿にあぁ、そうだわたしこの人と……と先程までの行為が脳裏に蘇りいたたまれなくなって腕で顔を隠す。……いま絶対顔赤い。
  
 「疲れただろう、水飲むかい?」
 「あ、はい。貰います」

 なんとか身体を起こし渡されたミネラルウォーターに口を付け少量ずつ飲む。冷たい水が染み渡りようやくふぅ、と一息つけた。

 「身体は大丈夫?」
 「はい、なんとか」
 「よかった。本当はもう少し時間かけようと思ったんだが私の方が我慢効かなくてね」

 すまないね、と頭を引き寄せられ額にキスされる。

 「初めてを私にくれてありがとう」
 「こちらこそ、ありがとうございます。えっと、その……途中訳わかんなくなっちゃったんですけど、気持ちよかった、です……」
 「満足してもらえたなら何より」
 
 柔らかく笑うスグルさんにあぁ、これでもう本当に終わりなんだな。こんな気持ちになるくらいならやっぱり撮影してもらえばよかった。そうしたらSNSにアップするまでの間だけでも彼に覚えててもらえる。
 今更そんな女々しい事を考えてしまう自分に嫌気がさした。


 ホテルで暫く休憩したあと、終電が近いからと嘘をついて彼と分かれた。これ以上彼と一緒にいたらあの優しい声に、目に、触れる手に感情を抱いてしまいそうで怖かったからだ。
 駅まで送ってくれたあと「じゃあ、また」と言っていたが、またがあるとは思っていない。スグルさんと一夜を過ごしたいと思ってる人はわたし以外にも沢山いて、気付かないフリをしていたが彼のスマホは何回も通知音が鳴っていた。おそらく殆どがお誘いのDMだったんだろう。

 ホームに入ってきた電車に乗り込み1番端っこの席に座る。イヤフォンとスマホを取り出し最近発売されたばかりのアルバムをランダムで流しながらSNSを開く。DMのマークをタップして1番上にあるメッセージを開いた。数時間前にも同じ事をしていたのにあの時とは気持ちが全く違う。
 
 今日はありがとうございました!───
 スグルさんのお陰で素敵な時間を過ごせました。───

 そうメッセージを送ってスマホを鞄に仕舞った。窓の外を眺め流れていく夜景に1つ息を吐く。



 イヤフォンからは叶うことの無い片想いを歌ったバラードが流れていた。



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