祈りに秘めた呪い
鳥居から本殿まで続く参道には幅いっぱいに人が溢れ列をなしている。新年を迎え3日は経っているが縁結びが有名なこの神社に参拝にくる人は後を絶たない。
人混みに呑まれながら上を見上げると雲一つない青い空が広がっている。陽射しも降り注いでいるが、空気はひんやりと冷え時折吹き抜ける風に体がぶるっと震える。重ね着にカイロと防寒はしてきたし、両サイドには風よけにもなってくれる巨大な男が居てくれるがそれでも冬の寒さには敵わない。
ふいに左肩に回された手に力が入り半ば強引に右側に引き寄せられ足がもつれそうになる。右上を見上げるとサングラス越しの青い瞳は左上の男に向いていた。
「おい、傑。お前がそこにいるとこいつが歩きずれぇだろ、もうちょっと離れろよ」
「そういう悟こそ手を離したらどうだい?ほら前の人進んでる。詰めないと後ろの人の迷惑になるだろ?」
「あ゛?こいつが寒そうだからこうしてんだろーがよ」
「なら私のマフラーをあげよう」
そう言うと傑は自分が使ってたマフラーをぐるりと巻いてくれた。鼻の下まで巻かれたマフラーに顔を埋めると傑が愛用してる香水がほんのり香り、ぬくぬくとした温かさが首元を覆う。
「ありがとう、傑」
「ナマエが風邪でも引いたら硝子に怒られるからね。まだ寒いなら私のコートの中にでも入るかい?」
「…あはは、それはさすがに遠慮しようかな…」
「ぶっ!ダッセぇ!フラれてやんの〜」
「ん?悟、君を入れてあげようか?」
「はぁ?やめろよ、気持ちわりぃな!」
新年早々わたしの頭上を飛び交うコントのような言い合い。またか…と苦笑いしか浮かばないが、悟が傑の服を掴むまでに発展すると周囲からの視線も刺さり「はい、そこまで!」と2人の間で手を叩く。
思ったより大きく鳴った音に揃って目を丸くするから、吹き出しそうになるのを我慢してコホンと咳払いを溢す。
「五条くん。夏油くん」
「「……っ!!」」
久しく呼んでいない呼び方で30センチ以上の巨人達を見上げニッコリと微笑むと、こちらの意図を酌んだのかゲッと顔を引き攣らせる。
「2人とも、他の人に迷惑かけるなら仲良くお手手繋いで先に帰っていいんだよ?」
「すまない…」
「わりぃ…調子乗りすぎた」
片方は眉尻を下げ、もう片方はガシガシと頭を掻きながら肩を落とす。190p前後の男が落ち込む姿は滑稽だし、そんな2人の様子をジッと見ていた小さい男の子から『ママー!あのお兄ちゃん達怒られてるー!』とダメ押しされ辺りから笑いが起きる。
普段から人に迷惑をかけてる2人にお灸を据えられて少し満足した。少年よグッジョブ。
その後は借りてきた猫の如く大人しくなり人の流れに乗って足を進め私たちの番が回ってきた。
お賽銭を放り投げ鐘を鳴らす。鐘紐も本数が限られるからどちらが一緒に鳴らすかで言い合いになりそうなのを咳払いで納める。
最終的には悟と1本を分け合う事になり大きな手に包まれながらカランカランと音を鳴らす。
二礼二拍手。両手を合わせ心の中で日頃の感謝と祈りを捧げ一礼する。
こういう業界にいるといつ命を落としても可笑しくない状況が付き纏ってくる。今も誰かが呪霊の被害に苦しんでるかもしれないし、正月関係なく任務にあたってる術師もいる。今日の帰り道に特級呪霊に逢う可能性だってある。
だからこそ生きて新たな年を迎えられるのは奇跡的な事だし、1年のスタートを大事な人と過ごせるのはこの上ない幸せなんだと実感する。
「よし、行くか」
早々に参拝を済ませた悟の声につられ顔を上げ、一足先に階段に向かう2人をゆっくりした足取りで追いかける。
「折角だしおみくじでも引いていくかい?」
「いいじゃん、どっちが大吉引けるか勝負しようぜ」
「悟…おみくじは勝負じゃなくて運試しだ」
「うっせーな!…って、おい。さっさと行くぞ」
「階段から落ちないように気を付けるんだよ」
数段下にいる2人から当たり前の様に手を差し出される。常に人を挟んではどうでもいい小競り合いを起こすけど、こういう時の気遣いや仕草を見ると愛されてるなぁ…と自惚れてしまう。
王道問題児の悟に優等生の皮をかぶった傑、見た目も考え方も正反対なのに時たまシンクロする思考は親友と言い合える所以だろう。それぞれの手に自分の手を重ねると優しく握られエスコートされながら階段を降りる。
手を繋いだままポケットに誘われ、にぎにぎと指を絡めたり手の甲を親指で撫でるからくすぐったい。
しかも歩きづらいのか両方から体を寄せてくるから人間サンドイッチ状態になる。
「つーかお前の手冷たすぎ、なに、死んでんの?」
「末端冷え性なだけですー!それに死んでたらもっと冷たいでしょ」
「こらこら2人とも、新年早々不謹慎な事言わない。…帰ったら私が暖めてあげるからね」
「はぁ?抜け駆けすんなよ!…帰ったらすぐ俺の部屋に来いよ」
「…っ!もう!2人して何言ってんの!!」
それぞれ耳元に顔が近付くと含みを持った声色が鼓膜を刺激し体の芯がぶわっと熱くなる。
付き合った当初、声が低い人って良いよね、と口を滑らせてしまいそれ以降何かにつけて低音ボイスを駆使してくるから質が悪い。さっきまで冷えてたはずの顔が暑く感じるのは傑のマフラーのせいじゃないと思う。
人前だっていうのにこの人らは…っ!!
「ふふっ、ちょっといじめすぎたかな?」
「もぉ、ほんっと最悪…っ!」
「とか言いながら好きなんだろ?顔真っ赤」
「2人のせいです!!」
「ふはは、じゃあおみくじ引いて帰ろうか」
愉快そうに笑う2人に手を引かれながら歩き出す。握られた手はどちらも離れないみたいだ。
「そういやお前なんてお願いしたんだよ」
「私も気になるな。最も君の願い事なら私や悟が叶えてあげるけどね」
「すごい自信…、でも内緒」
だって話して願い事が叶わなかったら困るもん。
わたしはもう悟と傑無しでは生きていく自信がないくらい甘やかされて絆されて。絶対に離れたくない。
2人は知らないと思うけど、貴方たちは自分が思ってる以上に
※2022/01/01 Twitter掲載