落葉樹の“柳”に、蓮華の“蓮”、漢数字の“二”で“柳蓮二”——
なんて綺麗な名前だろうか。
泉鏡花、二葉亭四迷、尾崎紅葉そして本名である芥川龍之介。
今も尚、語り継がれている文豪たちの作品を、私は彼らの名前が美しいからという理由で次々と読み漁っていった。
そしてある時から、本の後ろに入れられた図書カードにほぼ毎回書かれている名前の主が気になっていた。
“柳蓮二”
私が読みたいと思った本の図書カードにはいつもその人の名前が書かれていて、その名の美しさからどんな人なのか気になっていた。
現代にしては古風であるけれど、その趣のある名前は非常に羨ましい。
今日も、その美しい名の下に丁寧に自分の名前を書いて本を借りた。
◇
ずっと読んでみたいと思っていた森鴎外の舞姫。元々図書室にあった本なのだが、損傷が酷かったため私が新しく買ってもらえるよう申請したのだ。その本が今日入荷したと、同じクラスの図書委員が教えてくれた。
放課後、焦る気持ちを抑え早足で図書室へと向かう。新刊コーナーの隅の方に置かれた本。どうやらまだ誰にも借りられずにいたらしい。
ひと月ほど待ちわびたその本を手に取ろうとした時、ちょうど同じタイミングで伸びてきた手が視界に入り慌てて手を止めた。相手もそれに気付いたのか、黒いリストバンドが付けられた腕が動きを止める。それを辿っていけば、長身の男子生徒と目が合った。いや、正確には彼の目は細められているので“合った”とは言い難かった。
「すまない」
「あ、すみません」
私が言うよりも先にその人が謝った。
本に伸ばした手が気まずく宙を掴む。
相手は一瞬ためらった後、そっと本を手に取りそのまま黒いリストバンドが付けられた手を私に向けた。
「お先にどうぞ」
目は相変わらず細められているけれど、口角が少し上がっている。その優しい表情から、初めこそ仏頂面の怖い人かと思ったがそんなことはなかったらしい。
「いえ、あなたの方が早かったので先に借りてください」
「いや、君の方が0.5秒ほど先に手を伸ばしていた。それに俺は一度読んだことがあるから気にしなくていい」
先ほどよりも少し上に本が持ち上げられる。
確かにこの本は私が申請をして入荷してもらったもので、予てより楽しみにしていたものだ。一度読んだことがあると言っていることだし、お言葉に甘えてもバチは当たらないだろう。
「では、先にお借りします。ありがとうございます」
「あぁ」
丁寧にその本を受け取ると、彼の口角がさらに上げられた。意外と愛想がいいらしい。
サラッとした手触りの表紙に、舞姫と書かれた表紙を指でなぞる。わずかに擦れたページからは特有の紙の香りがした。
「では失礼する」
彼は片手をあげ、純文学書コーナーへと足を向ける。
しかし、入荷日当日に図書室に来るくらいだ。一度読んだことがあったとしてもきっと彼も読みたかったはず。私が返した後、すぐに別の人が借りてしまえば彼が借りるのは随分と先になってしまう。
それは申し訳ないと思い、少し距離が開いた彼の背中に声を掛ける。
「あの、私が読み終わったら知らせます。名前聞いてもいいですか?」
「いいのか?」
振り返り小首をかしげる彼は、本棚を背景とすると宛ら文豪のようで白黒写真で撮れば教科書に載せてもおかしくないくらいだ。
「はい」
「柳蓮二だ。では、楽しみにしてる」
“やなぎれんじ”。
落葉樹の“柳”に、蓮華の“蓮”、漢数字の“二”で“柳蓮二”。
音を聞くだけですぐに漢字に変換できるくらい見慣れた名前を頭の中で繰り返した。
この人が“柳蓮二”さん、か。
名前に負けないくらいの落ち着きがあって素敵な人だと、一度話しただけでそう思った。
名前だけではなく、次は彼自身を思い出せるようその背中をしばらく見つめていた。
◇
昼休み、一週間でようやく読み終えたその本を持って彼のクラスへと向かった。
教室内で見つけるも、入り口から離れたところにいる彼は私には気づかない。近くに居た人に呼んでくれるよう頼めば、私に気付いた彼が片手を上げた。
「やぁ」
「読み終わったから返却しようと思いまして。次借りるでしょう?」
「わざわざありがとう。だが昼休みはもうじき終わる。放課後でいいだろうか?」
「分かりました。すみません、もっと早く来れたら良かったんですけど……」
「君が謝る必要はない。それに放課後の方がゆっくり話せるだろう」
「え?」
視線を上にあげれば、「あっ」という声を呑み込むように口元に手を当てている彼がいた。
困っているのか、照れているのか、笑っているのか……彼の表情を未だに読み解くことはできないが、雰囲気から焦っていることだけは分かった。
「いや、今のは気にしなくていい。放課後、図書室でいいだろうか?」
「はい。では、また放課後に」
「あぁ」
持ってきた本を再度胸に抱えなおして、彼の教室を後にした。
数歩歩いて、先ほどの彼の様子が気になって振り返れば、まだ教室の入り口にいて目が合った。
今回は目が合ったと確信できた。何故なら、彼は私の視線に気づいて小さく手を振っていてくれたから。だから軽く会釈をして、足取り軽やかに自分の教室へと戻った。
放課後の図書室は、勉学に励む者や、本を借りる者でそこそこ賑わっている。当然、図書室ということで私語は慎むべきなのだが、放課後であれば小声で話せば怒られない程度には緩い空間となっている。
どうやら彼はまだ来ていないようで、返却済みの本を抱えながら純文学コーナーへと足を延ばした。次は何を借りようか?いつも名前や題名で惹かれるものを借りているからその背表紙から本を物色する。
「田山花袋。少女病」
その本を手に取り、中身よりも先に裏表紙を開く。そこに収められた図書カードにはやはり“柳蓮二”の名前があった。
「すまない。待たせたな」
少しだけ荒い息遣いを押し殺して掛けられた声に顔を上げる。
「そんなことはないです」
本を取り出すために、棚の縁に置いておいた彼に貸す予定の森鴎外の舞姫を手に取った。
「次はその本を借りるのか?」
彼の視線の先には私の左腕に抱えられた田山花袋の本がある。もしや、また彼も再度読み返したいのだろうか?先に私が手に取ったとはいえ、もしそうであるなら今回は彼に譲るべきだろう。
そう自分なりの解釈をし、舞姫と一緒に少女病を差し出した。
「そのつもりでしたが、柳君が借りたいなら譲ります」
「いや、そうではなくて……」
ふむ、と口元に手を当てて何かを考えている様子。いや、言葉を選んでいるのだろうか。
「その作品は君には少し早いのではないかと」
「解釈が難しいという事ですか?」
「いや、そうではないが……。では、舞姫は読んでみてどうだった?」
「エリスが可哀そうだなとは思いました、でも太田豊太郎の葛藤も分かったので一方的に太田を攻めることはできなかったですね。太田の最後の呟きは悲しくなりました」
「“相沢謙吉が如き良友は、世にまた得がたかるべし。されど我が脳裡に一点の彼を憎む心、今日までも残れりけり。”俺もよく覚えている」
「そう、それです。幸せとは言い難い結末でしたが好きな作品になりました。それが少女病となにか関係があるんですか?」
「そうだな。舞姫が気に入ったのなら……」
そう言うと私が差し出した本を二冊とも受け取って、本棚から一冊の本を抜き取った。背が高いと便利だなぁとその様子を見ていたら抜き取ったばかりの本を差し出された。
「川端康成の伊豆の踊子だ。名前くらいは聞いたことがあるだろう」
「はい」
それを受け取って表紙を眺める。確か伊豆を旅した実体験を元に書かれた作品だった気がする。
「同作者の雪国もいいが、まずは短編小説からのほうが入りやすいと思うぞ。きっと君なら一週間かからずに読めるだろう」
「少しだけあらすじも分かるから読みやすいかもしれないです。借りてみますね。ありがとうございます」
「そうか。また感想を聞かせてくれると嬉しい。あと敬語は抜きにしないか?」
「そうだね」
「あぁ」
あ、笑った。今のは絶対に笑った。
細められたままの目、わずかに上がった口角、それくらいしか変化がなかったのに笑ったと確信できた。
何故確信できたのか、きっと私にもう少し文才があれば上手く言葉にできたのだけれど。
「読み終わったらまた教室に行くね」
「え?」
田山花袋の本を棚に戻しかけた彼の手が止まった。
もしかして社交辞令だったのだろうか。今回は私が借りた本を彼に貸すことが理由だったわけで、ただ感想を言うために彼に会うなどと厚かましすぎる。
「ごめん、真に受けて…。素敵な本教えてくれてありがとう」
自分の勘違いに気付き恥ずかしくなって受付へと急いだ。
後ろから私を呼び止める声が聞こえたけど、きっと彼は私に気を遣って話を合わせてくれると思う。それも申し訳なくて、図書カードにいつもは丁寧に書く自分の名前を走り書きで記入し本を借りた。
◇
田山花袋の少女病は、やはり私には早すぎたのだとネットであらすじを読んで分かった。
異性との交際経験もなく、男性心理なんか分からない私にはまだ理解できそうにない。
そして彼推薦の伊豆の踊子は一週間かからず読み切った。ここまで柳君の予想が当たることになるとは自分でも少し驚いている。
次は何の本を借りようか。まぁ彼の助言もないのであれば、今まで通り作者名と題名で気に入ったものを借りるしかないのだけれど。
「ねぇ、教室の前で呼んでる人がいるよ」
お弁当を食べ終わり、友達とともにおしゃべりをしていればクラスの子が私に知らせてくれた。
教室の入り口を見れば伊豆の踊子を進めてくれた彼の姿が。先日の事が恥ずかしすぎて暫く顔など見れたものではないと思っていたのに、彼から来てくれたのであっては行くしかない。
「突然すまない」
「そんなことはないけど…。どうしたの?」
「そろそろ読み終えた頃かと思い、感想を聞きに来た」
「え?」
数回瞬きを繰り返した。この前のは社交辞令ではなかったのだろうか。いや、それよりも私が読み終わったことが何故わかったのだろうか。
「大方のあらすじを知っていたのであれば今日読み終える確率は80%といったところだが。違ったか?」
「すごい。今日返却しようと思ってたの」
「そうか」
また笑った。よく笑う人だな。
しかしなぜ彼はそんなことまで分かったのだろう。頭が良いというのとは少し違う気もする。ノストラダムスとまでは言えないが彼も予言者ではないのかと疑ってしまう。
「伊豆の踊子はどうだった?」
「小説で読むと世界観が独特だね。少し分からない言葉もあったけど、表現の仕方がすごく綺麗で読んでみてよかったよ」
「それは良かった」
口に綺麗な弧を描いて笑みが浮かべられる。
でもその優しささえも申し訳なく思えてくる。何故なら彼がわざわざ来てくれたのは先日の私の発言を失言にしないための気遣いなのだから。
「あの、そこまで気を遣ってくれなくてもいいよ」
「ん?それはどういうことだ」
眉間に皺を寄せた彼を見る。
「感想を聞かせてほしいって社交辞令、だよね?私が真に受けちゃったからわざわざ教室まで来てくれて……。だから、」
「迷惑、だったか?」
私の言葉を遮って彼の声がその場に落ちた。昼休みの廊下は、私たち以外にもおしゃべりをしている人が多くいるにも関わらずその声だけがやけに大きく聞こえた。
怒っているのか、悲しんでいるのか、彼の表情は読み取れない。
けれど、今の柳君を見ていると私が辛くなる。
「そんなことないよ!今までこんなに話せる人いなかったし、本だって作者名と題名で惹かれたものを読んでただけで…。だから柳君と話したり本を教えてくれるのすごく嬉しかったよ」
彼の顔を見ることができなくて、視線が下がりネクタイの結び目を見ていた。でもなかなか返答がなくて不安になって顔を上げると、人形のように固まってしまった柳君が私を見下ろしていた。
「柳君…?」
「え?あぁ、」
私の言葉に、ねじを巻き直したかのように動き出す。
「俺も同じように思っていた。しかし、そこまで力説されるとは予想外のことであった。俺がここに来たことは迷惑ではなかった、ということで良いか?」
「も、もちろん」
早口ではないけれど、解読文章を読むような話し方に言葉が詰まってしまった。
「次は移動教室だよ。そろそろ行こう?」
友達に肩を叩かれ、そこで休み時間が終わろうとしていることに気付いた。5限目は理科の実験、別棟にあるに理科室に行くにはそろそろ教室を出た方がいい時間だ。
友達にはすぐに追いかけると約束し、先に行ってもらった。
「すまない。君の昼休みを全て使ってしまったな」
「わざわざ来てくれたのにごめんね」
「あの、」
人が少なくなった教室に荷物を取りに戻ろうとした時、落ち着いた声に呼び止められる。
「放課後、図書室に行くのか?」
「うん」
「では、また後で」
その場の空気を撫でるように、一振りだけ手首を動かしてそう言った。
彼が廊下を歩く姿勢はとても美しくて、男性に使うのは少し違うけれどあのことわざが頭に浮かんだ。
“立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花”
そんなことを考えていたら教室には誰も居なくてなっていて、彼のような優雅さを何も身に着けず友達を追いかけた。
放課後の図書室には柳君の方が先に来ていて、私は本を返却してから彼のところへと向かった。
「おまたせ」
「そんなに急がなくても大丈夫だぞ」
その糸目をさらに細めて、優しく笑った。
「次はどんな本を読みたいんだ?」
「どんな本?」
「全てではないが純文学の本は割と読んでいる。希望に添えるものを提案しよう」
今までは借りても難しい単語がありすぎるものなどは最後まで読まずに返却することもあった。伊豆の踊子も面白かったし、彼からの申し出は非常にありがたい。
「うーん……。じゃあ次は楽しい気持ちになれて、幸せな結末の恋愛小説が読みたい」
「ふむ。楽しくて幸せな結末、恋愛小説か……」
伊豆の踊子のラストは悲しい別れだ。だから次は悲しくはない作品が読みたい。
そんな私からの難しいお願いに、顎に手を当てて考えてくれている。彼の整った横顔、そこから意外と睫毛は長いのだと気付かされる。
「では、」と本棚に移動して、そこから一冊の本を抜き取り差し出した。
「織田作之助の夫婦善哉だ。彼の代表作ともいえる作品で、しっかり者の女性と優柔不断な妻子持ちの男が駆け落ちする話だ。楽しいと思えるかは人によるが、主人公にとっては幸せな結末になったと俺は思うぞ」
今まで私のお眼鏡にはかなわなかった(大変失礼な言い方にはなるが)その作者名と題名が書かれた本を手に取る。
せっかく柳君が選んでくれたのだ。断る理由もないし、あらすじを聞いただけでも面白そう。
「そうなんだ。変なお願いだったのにさすが柳君だね。ありがとう。早速借りてくるね」
「待て」
柳君の横を通り抜けようとしたとき、彼の腕で道がふさがれる。顔を上げると、柳君は自分の行動に驚いたかのように腕を引っ込めて困ったように私を見ていた。
「どうしたの?」
「突然すまない。その、この後時間があるなら二人で読書をしないか?分からない言葉があれば教えられる。どうだろうか?」
驚いた顔も一瞬でいつも通りの表情に戻して、解読文章を読むように言葉を発した。
そんなことまで良いのだろうか。でも迷いよりも先に二つ返事で答えが出ていた。
「うん。一緒に読もう」
◇
それからはお互いに時間が合えば放課後は二人で読書をした。お互いに別の本を読んで会話がなく放課後を終えることもあったけれど、彼と向かい合わせで本を読む時間は私にとって特別なひと時であった。
季節は流れ、日が暮れるのも早くなれば柳君が途中まで私を送ってくれた。
下校時刻にはすでに空は藍色に深く染まっていて、地平線にわずかに茜色がその境界をぼかしていた。満月であるお月様は薄い雲により姿は隠され、わずかに漏れ出た青白い光が夜道を照らしている。
「“まそ鏡照るべき月を白栲の雲か隠せる天つ霧かも”」
「万葉集か?」
「うん。授業で習ったの」
「月が雲で覆われている今日にはぴったりだな」
「いや、もしかしたら雲ではなくて天の霧かもしれないよ?」
「そうだな」
静かに笑って、隠れた月を眺める柳君を盗み見た。
まさかここまで仲良くなれるなんて思ってもみなかった。
綺麗な名前だと興味を持って、本をきっかけに仲良くなって、一緒に帰るようにもなった。それが唐突に可笑しく思えて、隣に並ぶ柳君のこともお構いなしに笑ってしまった。
「何か面白いことでもあったか?」
「柳君とこんな風に月を見ることになるとは思わなかったなって」
「ん?」
「落葉樹の“柳”に、蓮華の“蓮”、漢数字の“二”で“柳蓮二”。本を借りるたびに綺麗な名前だなって惹かれて、ずっと会ってみたいって思ってたの。それが今では一緒に帰りながら月を見て……不思議だよね」
雲が流れその姿を現した満月が、青白い光を柳君に浴びせる。曖昧な返事をして視線を下に落とした柳君は、その光を避けるように顔を伏せた。
でもゆっくりと顔を上げて、月ではなく私に視線を合わせる。
「君がそうだったように、俺も大抵借りる本に君の名前があってずっと気になっていた。君が俺の名前に惹かれたのなら、俺は君の綺麗な書体を見て会ってみたいと思った」
月の光に照らされる柳君があまりにも綺麗で、気付けば二人で歩みを止めていた。
「だから舞姫が入荷した際、君と会えると思って図書室に足を運んだ」
「そうだったんだ」
今までの言動から、柳君がそこまでの予想を立てていたとしても驚くことはない。
でも、私の心臓はトクトクと速くなっていった。
「卑怯かもしれないが、夏目漱石の言葉を借りるとしよう。………“月が綺麗ですね”」
その言葉の意味を私は知っている。
恥ずかしがり屋な日本人は「I LOVE YOU」を「我、君ヲ愛ス」とは言えない。そんな気持ちを夏目漱石はそう訳した。
私が敬愛する二葉亭四迷はその返事を「あなたに委ねます」という意味で「死んでもいいわ」と訳した。でも私はそれが最も正しい答えであっても「死んでもいい」とは言いたくはなかった。
何故なら、これからは柳君と恋人として過ごしていきたいと思ったから。
「では私は森鴎外の言葉を借ります。………“時よ止まれ”」
月がまた雲に隠れて、光が遮られる。
その瞬間、本当に時が止まったかと思った。
体が動かなくて、あぁ言霊ってこういうことなのかなと思っていたら、目の前でサラサラの髪が揺れて時は止まっていないことに気付いた。
彼の香りが鼻腔をくすぐり、背中からは回された彼の腕のぬくもりが感じられる。
「ありがとう。君の事が好きだから」
「私も柳君のことが好きだから」
だから、もう少しだけ。
あと少しでいいので、お月様はその姿を隠してください。
何故なら、月明かりの下では“好き”とは言えない恥ずかしがり屋な私達なのですから。