九井一と花火大会


花火大会のお供となるものはやはり出店の食べ物である。焼きとうもろこしにチョコバナナ、リンゴ飴は外せないしかき氷は毎回何味にするか悩んじゃう。

「オマエ何やってんの?」

そして本日選ばれたものは、からあげクンでした。他にもアメリカンドッグにシュークリーム、ポテチを含めたお菓子の数々。それにもう胃の中だけれどアイスだってあったのだ。

「あっココくん。そっちこそどうしてこんなとこにいるの?」
「そこのコンビニに用があって」

彼が指差した方には青の看板が立っていた。そこは私が先程利用した店である。だからこそその裏手にあるブランコと滑り台くらいしかないここに通りすがったことも頷けた。

「ふぅん」
「で、オマエこそなんでいんだよ。花火会場は向こうだろ」

ドン——とその場所を知らせるように鈍い音が辺りに響く。ここから一キロほど離れたそこでは確かに花火大会が行われていた。本来であれば浴衣を着ている私もそこで今頃夜空に咲く花を見ていたかもしれない。

「友達にドタキャンされた」
「は?」
「ドタキャンっていうか邪魔者扱い?」

本当はクラスの友達と四人でいくはずだったのだ。でも待合せ場所に行ったら友達の他に三人の見知らぬ男がいて。どうやらナンパされてたらしい。「オレらも三人だし一緒に回らね?」と声を掛けられていて、しかもその人達が割とかっこよかったから「はぁい」なんて甘ったる声を出して彼女達は私を置いて行ってしまったのだ。

「だからやけ食い中です」

再び連続した音が地を震わすが残念ながら建物が邪魔でここからでは見えない。それでも時折、冠菊の流れ落ちる火花がうっすらと滑り台の手すりを照らしていた。

「女一人でこんなとこいんなよ」
「大丈夫だよ。どうせ皆花火大会に行ってるんだから」

夜の公園なんて普段なら一人で絶対来ないけど、今日という日にこんな場所にくる輩はそうはいるまい。まぁ目の前にいるけども。

「早く帰れよ」
「これ食べ切ったらね。じゃあねココくん」

ひらひらと手を振りながら爪楊枝に刺したからあげクンを口の中へと放り込む。本当だったら爪楊枝で食べるものはたこ焼きのはずだったんだけどな。

「ったく」
「えっ?」

ベンチが僅かに軋んだかと思えばココくんが私の隣に腰を下ろしていた。といってもベンチの真ん中には私が買った食べ物達がこれでもかと広げられていたので距離は人ひとり分くらいはあった。

「それ余ってんなら食っていい?金は払う」

そしてココくんは袋に入ったままのアメリカンドッグを顎で指した。正直、一人で全部食べ切るのは難しかったのでそれは有難い申し出だった。だからお金を貰うのは断って私の話に付き合ってもらうことにした。

「ココくんは花火大会行かなくてよかったの?」
「人多いとこ苦手なんだよ」
「私も。でも出店の食べ物美味しいじゃん」
「食うことしか考えてねぇのかよ」

だってああゆうところの食べ物って特別でしょ。焼きそばも家の夕食でも出されるけれど出店のものは一味も二味も違うもの。

「花火も見たいよ。でも人が多いとゆっくり見られないでしょ?それなら食べる方に労力使った方がいいかなって」

昔はお父さんに肩車をしてもらって頭一つ分抜きん出て見ることができたけど、地に足ついてみる花火はその美しさよりも周りの髪飾りが目について嫌になる。

「浴衣まで着てもったいねぇ」

ココくんはあっという間にアメリカンドッグを食べ切って半端に開けられたポテチの袋へと手を伸ばしていた。

「まぁね。でも見せる相手もいないし」

本当はみんなで写真も撮りたかったんだけどな。その為に今年は新しい浴衣を買ったのに。
ヒュゥッ——今までと一転して細い刺すような音の後に何発かの鈍い音が続いた。時刻を確認すればもうすぐ花火大会が終わる時間。きっとラストのスターマインなのだろう。

「なぁ、もしかしたら見えんじゃね?」

徐にココくんが立ち上がる。確かに建物の影には隠れているが今までよりも見える面積は増えている。もしかしたら滑り台の上に上がれば見えるかもしれない。

「見よう!」
「あぁ」

二人で駆け出して滑り台の元へと行く。私が下駄だったからココくんに先に登ってもらって、そして手摺を掴んで慎重に上ろうとしたら手を差し出された。どうやら貸してくれるらしい。その手を掴めば強い力で引っ張り上げられた。

「「あっ」」

私達の声が重なったと同時に、大きな大きな金の花が夜空に咲いた。それは今年初めて見る花火で、そして私が今まで見た中で一番美しい花火だった。

「綺麗だったね」
「そうだな」

空が再び濃紺に染まれば再び静寂が訪れた。その中で私たちは声を顰めて笑い合った。



「付き合ってくれてありがとね」
「気をつけて帰れよ」

ゴミを片付けて大通りまで一緒に出て交差点の手前でココくんとはお別れだ。辺りには花火大会から帰ってきただろう浴衣を着た人達がぽつりぽつりと歩いていた。

「じゃあまた」
「なぁ」

案外、悪くない花火大会だったなぁと行ってもいないのにそう思っていた。でも——

「なに?」

それは案外どころじゃなかった。

「浴衣、似合ってんぞ」

私の中で史上最高の花火大会になった。