新年の親戚との集まりで飲み過ぎた彼女を迎えに来た乾青宗の話


DAY:20XX年1月2日

年始の親戚との集まり。一見すれば仲の良い家族だと微笑まれるかもしれないけれど渦中の私からしてみれば地獄のイベント。何が楽しくておじさん相手ににこにこしながら美味くもない酒を煽らなければいけないのだろうか。

「やっと終わった…」

終わってもいないのだけれど頃合いを見計らい抜け出した。日本酒で熱った頬が夜風に攫われ気持ちがいい。休日運行の時刻表では当然帰りのバスもないわけで四十分は歩く覚悟で親戚の家を出た。

「あっメッセ来てる」

酔いが回る頭でスマホのディスプレイを叩けば二着のメッセージが届いていた。それはどちらとも同じ相手。二時間前に届いた内容は明日の待ち合わせ時間について、そして十分前に届いたものには飲み過ぎていないかという心配された内容だった。私はそれを一目見て、思わず通話ボタンをタップした。

『どした?』

二コールもしない内に呼び出し音が途切れ、少し驚く。

「青宗…」
『なに?』

突然の電話にも関わらず嫌な態度すら取らない彼に安心する。だから寂しさを紛らわすように私は慌てて言葉を繋いだ。

「いや、何でもないんだけどね。なんか声聞きたくなって…」

もっと良い言い訳があったのかもしれない。でも酔いが回った頭ではそう答えるのが精一杯で。だからそれ以上は何も言えなかった。

『珍しいじゃん』

電話越しの青宗が笑う。私からしてみればそれこそが珍しい。だから嬉しくなって、酔いを言い訳にしてつい甘えてしまった。

「ほんとはね、青宗に会いたくて電話掛けちゃった」

田舎の田んぼ道で私のヒールの音だけが響く。梅雨の時期ならまだカエルの合唱も聞こえるけれど流石に冬の夜までお供はしてくれないらしい。

『は?』

返って来た一言に苦笑い。流石に引かれたかな、と後悔しつつも今は話し相手が欲しかったので切られなかっただけマシである。

「冗談。それより明日の待合せは十一時で大丈夫だよ」

その時間なら寝坊はしない、と付け加えて笑えばスマホ越しからは何の返事もない。もしや圏外?なんて田舎特有の心配もしたけれど、どうやらそうではなかったらしい。

『今どこ?』
「え?」
『迎え行く』
「は?!」

もう日付け超えてるんですけど?!しかしそんな声も青宗の耳までは届いていないらしい。スマホ越しに階段を降りる音とバイクのエンジン音が聞こえた。

「いやいいって!もう遅いし!」
『オレに会いたいんだろ?』
「それはお酒特有のノリっていうか…」
『つーがオレが会いたい』

その一言で酔いも一瞬に覚めて私は立ち止まった。

「ほんと?」
『本当』
「マジで?」
『マジ。で、今どこいんの?』

簡潔に場所を述べれば「すぐ行く」と有無を言わさず応えが返ってくる。本当にいいのだろうか。でもそんな迷いよりもやっぱり嬉しくって。人がいない事を良いことに、顔をだらしなく破顔させた。

「青宗」
『なに?』

酔いに興じる夜があっても悪くはない。そんな自論に則って私は言葉を続ける。

「好き」
『知ってる』

つまんないの。ちょっとは照れてよ。せっかく柄にもなく言ってみたのにさ。
ムッとむくれてスマホを睨みつけたところで充電が危ういことに気付く。それを伝えて切ろうとしたら青宗から捨てゼリフが一言。

『さっきのセリフ、会ってからもう一度言えよ』

じゃあな、なんて言って切られてしまえば顔を真っ赤にするしかない。それを紛らわすために無駄にコンビニまでの道のりをダッシュしてしまった。

「青宗!」
「お待たせ」

待ち合せのコンビニに着いて十五分後、聞き慣れたバイク音と共に青宗が現れた。そしてヘルメットを外した彼に駆け寄れば私が言うより先に言葉が掛けられる。

「オレになんか言うことない?」 

なんで青宗がドヤ顔してるの?それ、今する顔じゃないからね。でも私は素直に思っていた事を口にした。

「好き」
「よく出来ました」

私の頭を撫でてヘルメットを被せてくれる。恥ずかしさと嬉しさでにやにやしていたら「飲み過ぎ」だと怒られる。お酒のせいじゃないからね?でもそれがやっぱり嬉しくてバイクの後ろに乗って青宗の背中に抱き着いた。

「今日、なんかおかしくない?」
「そう?私はいつでも青宗のこと好きだからね」

寒さと照れを誤魔化すように腰に回した腕に力を込める。エンジン音を聞きながらぎゅっと抱きついてみたが、何故だか中々発進しない。どうせ何にも反応してくれないんだろうなとは思っていたがこれは一体どういうつもりだろうか。

「青宗…?」

控えめに声を掛ければ首だけでこちらを振り返った彼と目が合った。

「酔っ払いを一人にしておくの嫌だから今日オレん家な」
「え?」

私の返事を聞く前にバイクが動き出して青宗の家の方へと進んでいく。そして信号で止まったタイミングで追い討ちまで頂いてしまった。

「明日の初詣は午後からでいいよな?」

まさかの"二次会"をする羽目になるとはね。
因みに初詣は色々あって行けませんでした。