正月太りした彼女と乾青宗の話


DAY:20XX年1月4日

つま先立ちしても片脚立ちしても目の前の数字は変わらない。

「二キロ太った…」

そりぁ確かに年末年始は親戚との集まりで飲み食いしたけどまさかここまで増えているとは。デブは三日で成れれど同じ日数で痩せられるわけではない。

「ダイエットしよう。あわよくば三キロくらい落としたい」

今年の目標が決まった瞬間だった。



買い物の予定を変更して私は彼氏を公園へと呼び出した。

「なんでジャージ?」
「寧ろなんで私服で来たの?」

可愛げのないジャージに身を包んだ私とは裏腹に青宗はいつものジャケットとジーンズ。でも靴がスニーカーなだけまだマシか。

「今日は運動しようって言ったよね?」
「えっ結構マジでやるかんじ?」
「マジもマジ。大マジだよ!」
「はぁ」

青宗としては正月らしく羽付きか凧揚げをするつもりで来たらしい。その発想は可愛いが生憎それで落ちるほど私に付いた贅肉は可愛くないのだ。

「今から走ります!とりあえずこの公園を一周ね」

集合した森林公園は池やハイキングコースもあるくらい敷地面積が広い。現にここでランニングをしている人も多いので便乗させてもらうことにした。

「オマエ運動苦手だろ」
「走るのに運動音痴は関係ないでしょ」
「そもそも体力ねぇじゃん」
「そこはやる気でカバーするの!ほら準備運動して行くよ!」

腕を引っ張り早くしてよと急かす。初めは面倒くさがっていたけれど、なんだかんだ言いつつも私に付き合ってくれるとこが青宗の良いところ。走り出せば私のペースに合わせて横に並んでくれた。

しかし、やはり先に力尽きたのは私の方だった。

「もう、むり……」
「あと四分の一くらい残ってるけど」
「歩きます…」
「分かった」

ぜぇはぁ呼吸を乱している私とは違い青宗はいつも通りである。自分だって普段は運動してないはずなのに。

「急に運動するだなんてどうしたの?」

妬ましい思いで下唇を噛みしめていればそんなことを聞かれた。確かに疑問に思われるよね。

「……太った」

顔を背けながら本当のことを言う。ここで誤魔化しても意味がないしね。というか私が太ったのは青宗にも責任があると思う。だって出掛けてもいつもバイクで送り迎えにしてくれるし。今日だって迎えに行くと言ってくれたのを断って歩いてきた。

「見ただけじゃ分かんねぇけど」
「いや、現に増えてたし自分でも分かる」

顔には出ていないが確実にお腹周りやお尻のあたりにヤツはいる。

「ふぅん。そう?」
「ひっ?!ちょっとぉ?!」

不意に横から伸びてきた手に横腹の肉を摘まれる。そして、ここで青宗の腹に右ストレートを躊躇いなく入れた私は何も悪くないと思う。

「イッテェ!」
「なにすんの?!今のはマジでない!」
「別によくね?オマエの全部見てるし触ってるし」
「デリカシーの問題!」

繊細な乙女心にキズを負わせやがって。でもこれで改めて決心がついた。青宗を見返す為に絶対に痩せる。

「三キロ痩せるまで青宗に会わない」
「は?」
「だってまた摘むでしょ。摘む肉がなくなるまで会わない」
「え、いや、ごめん。オレが悪かったって。もうやらないから」
「ほんと?」
「ほんと。ごめん、許して?」

くっ…これだから顔のいい男は。うるっと瞳を潤ませて言われてしまえばそれ以上は言えない。

「うん、私も大人気なくてごめん…じゃあ青宗も協力してくれる?」
「もちろん」
「じゃあしばらくはバイクでの送り迎えはなしね」
「分かった」
「それと一緒に走ってくれると嬉しい」
「うん」
「あ、あと痩せるまでえっちしないから」
「は?」

こんなダラシない体見せられないしね、なんて笑えば青宗の目の色が変わった。

「もう一周走るぞ」
「はい?」
「オマエ用の練習メニューも作るから」
「えっ結構マジでやるかんじ?」
「当たり前だろ」

なぜだか私よりも青宗がやる気になってしまった。でもお陰様で一ヶ月で三キロ痩せました。