乾青宗と服を買いに行く話


高校時代の友達と久しぶりに出掛けることになった。場所は都内からも近い夢の国。せっかくなら四人でおそろコーデしよ!なんて年甲斐もなくはしゃいで、ネットでそろいのパーカーを買った。そしたらやっぱり新しいスカートも欲しくなるよね。

「と、言うわけで今日は買い物に行きたいです」
「分かった」

お家デートを返上して彼氏の青宗を外へと連れ出した。とりあえず池袋まで出て服屋が多く入っている商業ビルを目指す。 女の買い物に付き合うのが嫌って男の人は多いけど、青宗には文句一つ言われたことがない。案外、女性物でも服を見るのは好きらしい。

「これとかどうかな?」

気になったものを三着ほど持ち出して青宗を呼ぶ。店の姿見鏡の前に立ちハンガーにかかったままのスカートを自分の前に当てた。

「丈短くね?」
「そう?じゃあこれは?」
「短いって」
「これも?」
「ダメ」

えーせっかくいいなと思ったのに。そんなに膝上のスカートがダメなの?高校の時はこれより短いのも履いてたんだけどな。まぁもう十代ではないけれど夢の国でくらい夢見る乙女でいさせてよ。

「これとかは?」

渋々元の場所へとスカートを戻していれば青宗が一着の服を持って帰ってきた。色褪せた生地にダメージ加工がされたデニム。確か前に青宗が履いていたのを見て私も着てみたいなぁと言ったものだった。

「スカートより難易度高くない?」
「でも露出少ないし」
「そういうのは脚の長い人が似合うんだよ」
「いいから履いてみろって」

青宗に促されるまま試着室へと入ることに。デニム自体、普段から履かないしきっと似合わないだろうと思いながら脚を通す。でも改めて鏡を見れば意外と悪くないことに気がついた。

「着替えた?」

カーテンの向こう側から声が掛けられる。居たんだ、と驚きつつもそれなら見てもらったほうがいいと思い試着室を出た。

「どうかな?」
「うん。似合ってる」

本当は可愛いスカートが履きたかったけどたくさん動くならこの方がいいよね。それにせっかく選んでくれたものだし。私はそれをレジへと持って行った。

「青宗は何か買う?」
「オレは別に…」
「そういえばツナギの下に着るTシャツが欲しいって言ってなかったっけ?」
「あー確かに」
「じゃあ次は私が選んであげる!」

ここにはメンズのお店も揃っている。きょろきょろと辺りを見回していれば、エスカレーターで階を降りたところで可愛いTシャツが目に着いた。

「これとかどう?」

青宗を店の場所まで連れて行き一枚のTシャツを胸に当てた。雪の結晶の中に黒猫の顔が描かれたシャツ。左右のTとWの意味は分からなかったが結構イカしたデザインだと思う。

「ダッッセぇ」
「えー!可愛いじゃん!」
「ンなモン服の下でも着れねぇよ」
「あっこれ色違いもある!じゃあ私が買おっかな」
「それ着たオマエはさすがに抱けない」
「ひどっ」

んー猫だからいけなかったのかな。じゃあ夢の国に行ったら犬のお土産買ってきてあげようっと。



「きゃー!青宗かわいい〜!」
「その結果がこれかよ」

白地に前ファスナーのパーカー。しかしそのフードには黒のタレ耳が付いている。ダルメシアンっぽいそれを着た青宗はまさに『イヌピー』だ。

「似合ってる似合ってる!」
「いま初めてオマエのことブン殴りたくなったわ」
「それ、前に青宗に黙って人数合わせの合コンに行った時にも言われた」
「じゃあ二回目だわ」

とりあえず写真は撮っておこうとスマホを構えれば、こちらがシャッターを着る前にパーカーが投げつけられた。ひっど。

「それはオマエが着ろ」
「私じゃ大きいよ」
「デカい分には問題ねぇだろ。あとコレ」

頭にかかったパーカーを退ければ目の前には一〇一匹…には満たないが犬が所狭しとプリントされたシャツを着る青宗が。

「Tシャツ欲しいって言ってたよね」
「生首だけの犬が大量に印刷された服はいらねぇ」
「一々文句が多いなぁ。あとそれは胴が隠れてるだけで生首じゃないから」
「オマエからの土産じゃなきゃ今ごろ唾吐きかけて捨ててるわ」
「なにそれ。アルパカの威嚇の話?」

さすがにそのTシャツはサイズ的に着れないので「クーリングオフ期間は終了しました」の言葉で押し付けた。食わず嫌いならず着わず嫌いはよくないよ。でもこの分だと箪笥の肥やしになるんだろうなぁ…


「あれ?イヌピーがキャラT着てんの珍しくね?」
「彼女からのプレゼント」
「自慢かよ」

しかしそんな私の予想を裏切って、後日ドラケンくんにドヤる青宗がいた。