「じゃーーーん!誰だと思う?由杏だよ」

冬伊は戯けるように言って由杏を自分の肩で押して、テーブルで食事をしていた人物の目の前に突き出した。

そして先に席についていた歩の横へ、自分の溢れんばかりに食べ物が乗ったトレイを置く。 

その人物は王者のように、側に煌びやかな連中を従えて一角を陣取っていた。

栗原莉於くりはらりおは、その声にフォークを持つ手を止めて顔を上げた。

その顔は由杏が知っていた、黒髪で品の良い出で立ちとは様変わりしていて、目の前にいる莉於はプラチナブロンドに幾つものイヤーピアス、そして前髪が零れる隙間から覗く冷酷そうな瞳で、ゆっくりと視線を隣の由杏に移した。

『アイツ変わったから』

本当に変わり果ててはいたが、綺麗な顔は昔のままで幾分顔つきがシャープになって大人びた分、そこはかとなく漂う色気のようなものを纏っていて、由杏の鼓動は激しく高鳴りその心を鷲掴みした。


  そう、由杏がこの二年間会いたくて、会いたくて仕方のない人だったからだ…。

  だが…、


  その瞳には嫌悪、或いは憎悪意外の何物も映していなかった…。


そして、理央は僅かに眉間に皺を寄せて由杏から視線を剥がした。

「………」

「………」

掛けて貰える言葉もなければ、掛ける言葉も見つからなかった。


「な…何…?」

この異様な空気の中、冬伊の耳元に歩が囁いた。

「ま、しょうがねぇな…、おいそっちに寄って、飯食おうとすっか」

冬伊は歩達を理央から遠ざけるように、理央の斜め前の席にトレイをずらしてその横に座るよう促した。

「ねーねー誰その美形、女の子かと思ったわー」

莉於を取り囲んでいた仲間の一人が冬伊に尋ねた。

「三組の転校生、そして俺らの幼なじみ」

「へーー、つー事は莉於知り合いなんじゃん」

そいつが莉於に返事を求めても、彼は無視して食べ続けていた。

「なになに〜、ワケあり〜〜?」

莉於の様子を見て面白がってからかうも、聞こえて無いかのように振る舞ってはいても、黙っている時こそ怒りのボルテージが高いことを知っている冬伊は、そろそろ莉於の堪忍袋が切れそうなのを悟ってそいつを止めた。

「うぜぇよ岬、向こうへ行け!」

「なんだよぉ〜、冬伊まで、ちっ、つまんねー奴ら」

既に食事を食べ終えていたのか、岬と呼ばれた奴はトレイを持つと返却口へと戻しに行った。


由杏は思っていた以上の拒否反応に萎えていた。

決して許して貰えるとは思ってなかった…。

だけど…、1%くらいの確率でどこか期待してた自分がいた…、会えて喜んでくれるかと…。


「ま、あれが普通の反応だろう由杏?」

冬伊はパスタをフォークに絡ませながら、由杏を見ずに小声で言った。

わけが分からない歩は、食べる手を休めてじっと話を聞いている。

「うん…」

由杏は食事をする気にもなれずに、目の前のグラスに付いた水滴が落ちてゆくのをじっと見つめていた。

「お前、誰にもさよならの一言も告げずにいなくなったんだぜ?酷くね?」

「うん…そうだね」

由杏は聞いているのかいないのか、一点を見つめたまま微動だしなかった。

だから莉於の隣で親衛隊を従えて座っていた、黒髪の美少年が睨むように由杏を見ていた事に全く気付いていなかった。

冬伊は黙々とパスタを頬張りながら言う。


「なぜ今頃帰って来たんだ…」


冬伊の言葉は、由杏の脳裏に響いて木霊した…。








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