顔を上げてびしぃっと指を突き立ててくる苗字に、悪ぃと手を合わせる。
っていうか今気づいたが、目の前にいる苗字はいつもの制服姿ではなく薄手のニットのワンピースに身を包んでいる。
休校日だから当然といえば当然なのだが、俺と反対方向から歩いてきたということはどこかに出かけていたのだろうか。


「苗字、どっか行ってたのか?」
「あ、うん!お昼食べに行ってたのだよ〜」
「そうか、何食ったんだ?」
「かつ丼!」
「お前いつもかつ丼食ってるな…」


目の前でへにゃりと幸せそうに笑う苗字は小柄なくせに大食いだ。
本人曰く個性の特性上エネルギーを消費するから致し方ない、らしい。
燃費が悪いというかなんというか、まあその幸せそうに食事する姿に惚れたといっても過言ではないのだが。


「えへへ、切島くんがこの近くに新しいお店ができたって教えてくれたから、連れて行ってもらったのだ!」
「切島?!」


幸せそうなその顔を見てキュンとしたのもつかの間。
いいだろう!と自慢げな表情を見せるその口からその名が出てくるなんて。
さっきまで友情と恋心を天秤にかけて悩んでいた俺は何だったのだろうか。
どうやらライバルはとっくに俺よりゴールに近しいところにいるらしい。


「うん、みなちゃんも一緒にね。偶然寮の出口であったから3人で!」
「(芦戸サンクス…)」


胸の中で黒目がちというには幾分か黒すぎる瞳のクラスメイトに感謝を述べる。
しかし目の前のこの幸せそうな笑顔は、切島がもたらしたのだと思うと胸がざわつく。


「上鳴君も今からお昼?」
「ああ、そんなとこ」
「おお!じゃあ、さっきのお店をオススメするよ!」


本当においしかったんだよ〜と門を出てからの店へのルートをご丁寧に説明してくれる苗字。


「サンキュー、行ってみるわ」
「うん!じゃ、私は部屋に戻るね」
「、おう」
「しっかり食べて早く良くなるようにね!」


話も終わったタイミングで、ぽんと俺の方に手を置いてお大事にと一言残した苗字は俺が来た方向へ歩みだす。


(このままでいいのか?)


いや、いいわけない。


少しずつ離れていくその小さな背中を見つめて、ぐっと拳を握りしめる。



「苗字!!」
「ふぇ?」



思わずちょっとでかい声で名前を呼んでしまったからか、どんぐりまなこを見開いてびっくりした様子の苗字がこちらを振り返る。
あ、わりぃ。びっくりさせるつもりじゃなかったんだけど。


「上鳴君、どうしたの?」


小首をかしげてへにゃりと笑いかけてくれる、苗字。
言え、言うんだ上鳴電気。




「ら、来週は、俺と飯行かねえ?」




言ったあああああ!
男、上鳴電気。やれることはやりきった。
これで振られたらもう仕方ない、と腹を決めて目の前の思い人を見つめたら。



「うん!楽しみにしてるね!」


いつも追っていた笑顔が今は俺だけに向けられて。


(ああ神様、ありがとう…)


勝利の女神はまだ微笑んではくれてはいないけれど、何気ない会話から育てたい。



甘くなる果実



「あ、上鳴君。それまでにちゃんと風邪を治すのだよ」
「…お、おう」

願わくばこの言い訳を笑い話にできる日が近い未来に訪れますように




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