そんなこんなで苗字さんは僕にとって特別な人になった。
夏休み中の一連の事件から学校は全寮制になったけれど、猫のことが心配だからとかこつけて週に1度こうしてここに来ることが習慣化している。


「心操くんが早くヒーロー科にきてくれたらいいのになぁ」
「…そう言ってくれるのは苗字さんくらいだよ」
「そうかなあ。でもそうしたら絶対にもっと楽しくなると思うもん」


苗字さんは、ねえ?と膝の上で丸くなる白い毛玉に語りかけながら嬉しい言葉を紡いでくれる。


「皆すっごく楽しい人なんだよ」


緑谷は気が付いたらどんどん個性をコントロールできるようになっていて刺激を受けていること
爆豪は最初こそ怖い人だと思っていたけど、圧倒的な才能の持ち主で実は結構優しいところもあるということ
轟もまた恵まれた個性を自分のものにして成長が目覚ましいことや個人的に勉強も教えてもらって世話になっている事


次々とクラスメイトとの日常を語って、苗字さんが心から楽し気に笑う。
思い人である彼女が夢を追いながら日々充実した生活を過ごしていることが嬉しくも、彼女の口から名前の出る他の男達に嫉妬をせずにいられない。
でも、だめだ。
その土俵にすら立てていない自分は、彼女の周りにいる選ばれた奴らに正直今はまだ叶わない。
彼女の肯定を得られてもなお、ヒーロー科に所属する彼女と普通科所属の自分では正直釣り合いがとれないし、そこへのコンプレックスはいまだ根深いものがある。


「早く来てね、待ってるよ」
「…必ず行くよ。約束する」


だから、まだこの気持ちは胸の奥に大事にしまっておくことにする。
個性を使ってしまえば今この瞬間だけでも苗字さんを僕のモノにしてしまうこともできるけれど。
自分を超えて、まわりの奴らを超えて、正々堂々戦おう。



たいようのうた



最後に笑うのは本当のヒーローだと信じて。



back