ジューっという音に、砂糖が焦げた甘い匂いがただよってくる。
緑谷君!君をコーヒー係に任命する!といきなり言われ、キッチンスペースに連行されたわけだが。
ミルクをたっぷりいれてくれたまえよ、との要望があったので要望通りミルクたっぷりのコーヒーを淹れる横で苗字さんはフレンチトーストを焼いている。
食堂が休みの週末の朝はこうして苗字さんは早起きして朝食を作っているのだそうだ。
そして今日は、疲れて倒れていた僕を見かねてそのとっておきの朝食を振るまってくれるらしい。
「苗字さん、なんかごめんね」
「むむ、緑谷くんなんで謝るの?」
「いや、だって休みの日なのにわざわざ気を使ってもらって申し訳ないというか…」
「なんだそんなことか〜」
気にしないで〜という彼女はご機嫌にフライパンの上のトーストをひっくり返してニコッと笑う。
「一緒に食べたほうがおいしいから!」
きゅん
(あ、この感覚)
一昨日の夜、かっちゃんがもしかして苗字さんのことを好きなのではないかと思ったときにも胸が締め付けられるような感覚がした。
でもこの間は、ぎゅっときつく握りつぶされて、破裂しそうな感覚だったのに。
(ぽかぽかする…)
今はなんだか、胸がきゅっと軽く締め付けられてじんわりあたたかい感覚が全身に伝わって。
(心地いい…)
「さあお待ちどうさまです!日曜日の特製朝ごはんができましたよ〜」
「わ、おいしそう…」
胸に手を当ててこの感覚は何なんだろう、と頭に疑問符を浮かべていたら、どうやら朝ごはんが完成したらしい。
ふっくらと甘い匂いを放つトーストにはご丁寧にホイップクリームとミントが添えらえて、つやつや黄金色に輝くはちみつがたっぷりかかっている。なるほどこれはとっておきの朝食である。
「じゃあ緑谷君、これとコーヒーを運んでくれたまえ!」
「あ、うん」
トレイに2人前のフレンチトーストとミルクたっぷりのコーヒーをのせて、日差しが気持ちいい窓際の席に運ぶ。
彼女曰くここは“特等席”なのだそうだ。
向かいに座る苗字さんと、自分の前に一つずつお皿とマグカップを置いたら、
「「いただきます」」
手を合わせて、朝食タイムのスタートである。
「お味はどうかね、緑谷くん」
「苗字さん、これ、すっごくおいしい」
口いっぱいに広がる甘さがつかれた体にしみわたっていく。
なんていうか、もし幸せに味があるとするならば、きっとこういう味なんだと思う。
僕が一口目を口に運ぶ姿を向かいの席からまじまじと見つめてきた彼女に素直に感想を伝えると、彼女はとっても満足そうな笑みを浮かべて、
「そっか、よかった!」
きゅん
(ああ、きっと)
恋しちゃったんだ、たぶん
この甘さはお砂糖でもはちみつでもなく、きっと、
back