「最近どうだ」
「うーん、ぼちぼち。勝己はすごいね、テレビで見ない日ないよ」
「独立して仕事ねえとか言ってたら終わってんだろ」
「あ、事務所うまくいってるんだね、よかった」
ニトロの甘い香りを夜風が連れてくる。
大好きな勝己のにおいに久々に触れて鼻がなんだかくすぐったい。
「でも、勝己なら絶対うまくいくって思ってたよ」
「…じゃあなんで出ていった?」
2度目の別れの理由もやっぱりこれといってない。
強いて言うなら独立を決めた勝己がヒーロー活動だけじゃなく経営者としての仕事でも忙しくなって、それまで以上にすれ違ったことくらいだろうか。
上を目指す彼を支えられるわけでもなく、何もできない自分が近くにいても荷物になってしまうと思った。
別れの言葉なんて特にあったわけでもない。
ちょうどそのタイミングでヴィランと交戦した際に、軽く入院が必要な傷を負った私がいいきっかけだしと実家に帰っただけだ。
「勝己の邪魔したくなかったし、何もしてあげれないし…」
「…俺、なんかしろって名前に言ったことあるか」
「ない、けど、」
「俺は別にお前に何かしてもらわなくても自分でできんだよ」
そう、勝己は才能マンだから何でもできる。
そもそも私と付き合っていたことが不思議なくらいで、だからこうして終わることもそれはなんら不思議ではなくて、むしろこれが正解だとすら思う。
独立して地位も名誉も金銭もすべてを手にして、口こそ悪いけれどルックスだっていい勝己の隣にいるのは私じゃないはずだ。
「…俺、なんかかわったか?」
「うーん、かわらないかな」
昔からただひたすら夢を体現していく勝己はいつだってぶれないしかわらない。
強いて言うとすればよりヒーローらしくなったことと、大人になってだいぶ丸くなったことだろうか。
無論どちらもいいことである。
「じゃあ飽きたってことか」
「…飽きてないよ、飽きたことなんてないよ」
互いに横並びで正面を向いているから質問をぶつけてくる彼の顔は見えないけれど、口調からしてちょっとイライラしてるのだろう。
プライドが高い彼は、自分の納得しないことは絶対に認めない。いや、認めないどころかむしろ事実を覆すことすらある。
「じゃあ、帰ってこい」
「…は?」
勝己がくれたお水と夜風のおかげでだいぶ酔いがさめたはずの頭に衝撃が走る。
彼は何を言いだすんだろう。
「さっき切島に言われた、なんで一緒じゃねえんだって」
「切島くん、」
「だから話した。名前は実家に帰ったって」
そりゃあそうだ。今まで絶対に隣にいたのに、切島君が何も思わないわけがない。
正直勝己の家を出たときに彼には話すべきか悩んだけれど、私が話したところで絶対勝己に連絡がいくことは目に見えていたので、それでは忙しい彼の負担になると思って私の口からは何も言わないでいた。
「そしたらあいつクソ髪の分際で口ばっかり出してきやがって…なんでだって聞かれたけど、そういやあの時お前がなんで出ていったのか聞いてねえし、聞きに行こうとしたらアホ共とヘラヘラ酒飲んでやがる」
「……」
すっかり当たり前のことになって頭から抜け落ちていたけれど、この男は誰より独占欲とプライドが高い。
「独立はリスクもあるし、ついてきたくねえってことかと思ってたがそれは違ぇんだろ」
「勝己は何でもできちゃうのに、失敗するわけなんてないよ」
そして繊細で、頭が良くて。
「で、俺が変わったわけでも飽きたわけでもねえ」
「うん、違う」
本当はすごく優しいのだ。
「なら、帰ってこい。俺は何でもできるけど、名前は俺がいないと何もできねぇんだから」
「…うん」
甘い香りを放つ彼の大きな手が私の髪をくしゃりと掴んだ。
ハイライフ
カクテル言葉:私はあなたにふさわしい
「あ、お2人さん帰ってきた」
「切島君久しぶり!」
「クソ髪、人の嫁と口きいたら殺すぞ」
「「嫁??!!」」
(さっさと独立して籍入れるつもりだったんだよクソが)
(私の苗字爆豪になるのか…(それはちょっといやだ))
(ああん?なんか文句あんのか)
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