「そもそも名前ちゃんまだ結婚すらしとらんやん」
「お茶子言ってくれないでくれたまえ…でもまあいいの、仕事があるだけありがたいし贅沢は言わないよ私は」


そう、恋愛なんてしてる暇はない。…と言い訳しつつ、年齢的に何も考えないわけではないのだが。
事実そんな余裕は時間的にも精神的にもなく、もっぱら当時からの推しヒーローショート…基、轟君の活躍を見届けるのが私の趣味兼癒しとなっている。


「まあ苗字には轟がいるもんな」
「そう!切島君さすがよくわかってる。私にはショートがいてくれるからいいの」


私のショート愛はクラスの全員が知っている周知の事実で、切島君には席替えの時にこっそり轟君の隣の席を譲ってもらった過去がある。


「ていうかずっと思ってたけどなんでお前ら付き合わないの?」
「やめてよ、そんなんじゃないから」
「でも名前ずっと轟のこと追いかけてるじゃん」
「ショートはそういうんじゃなくてもっと尊い存在なの…!」


上鳴君と三奈が突然とんでもないことを言い出すものだから思わず手にしていたカクテルを落とすところだった。


(なんてことを言い出すんだこのモブ達は…!)


下心のあるやつだと思われて警戒されてしまってこうして元クラスメイトという立場を利用してお近づきになることができなくなったらどうしてくれるのだ。
大体かれこれ10年彼のファンをしてきて、彼のことは重々承知済み。
学生時代からその天然節で思いを伝えてきた女子をバサバサと切り捨ててきた彼は、プロヒーローとなった今も熱愛報道の1つもない。


「もう、ショートごめんね?みんなが変なこと言うから…」


モブ達の下世話な冷やかしに巻き込んでしまって彼は不機嫌になってはいないだろうか。
恐る恐る向かいに座る彼の方を向けば、ぱちくりと瞬きするオッドアイと目が合う。


「苗字は俺だといやか?」
「そんなわけ!…って、え?」
「そうか、よかった」
「いやいやいや、待って待って…〜待て!」
「名前ちゃん最後言い切ったわね」


ちょっと待て、お願いだから待ってくれ。
彼は一体全体何を言っているのだろうか。
梅雨ちゃんの声がかすかに聞こえたような気もするけど今はそれどころではない。
色々と整理しなくてはならないことが多すぎて、再度目の前のオッドアイを見つめ返す。


「え、ショ…轟君?」
「ん?どうした名前」


先ほどまで勢いよくかきこんでいたカクテルたちが体にしみわたってただでさえ熱いというのに、アルコールのせいかいつもより潤んで熱を持った緑と黒の瞳に見つめ返されれば一気に頭に熱が押し寄せる。


「…ぁぅ、」
「ああ!突然の名雨呼びに苗字さんが倒れましたわ!」


そして私の頭がショートした。




スコーピオン
カクテル言葉:瞳で酔わせて



(おい轟、名前介抱してやれ…って、轟も寝てんだけど)
(じゃあ置いて帰ろー!)
(ていうか本当になんで今まで付き合ってなかったんやろ?)
(それはねお茶子ちゃん、2人とも天然だからよ)


正式な告白まであと1時間



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