「どうだった、同窓会」
「楽しかったよ」
「そうか」
ソファにかける彼の足の間に納まるようにラグの上に体育座りをして、今日の出来事を報告しながらドライヤーの温かい風を受ける。
武骨で大きな彼の手に髪を掬いあげられるのが心地いい。毎日のこの時間は私のひそかな楽しみだ。
「先生も来たらよかったのに」
「…名前、」
「あ。…消太さん」
「ったく、いつになったら慣れるのかねお前は」
はあ、と小さくため息をつく彼は背後にいるから表情は見えないけれど、きっといつものようにあきれたように笑っているに違いない。
「ほら、今日はみんなが消太さんのこと先生って言ってたから、つい」
「…あいつらかわりないか?」
「うん、みんな相変わらずだったよ」
「そうか」
過去に彼の生徒だった私の級友達をメディアで見かけるたびに、彼の口元がなんだか嬉しそうに緩く弧を描いている事を私は知っている。
全員揃って無事に雄英を卒業して望んでいた夢を叶えたことを誰より喜んでいるのは間違いなく彼、相澤消太であろう。
普段は決して自分から口に出すことはしないけれど。
いくつになっても、何年たっても彼は私たちの担任の”相澤先生”なのだ。
「みんな消太さんに会いたがってたよ」
「…そうか」
「消太さん同窓会来たことないよね。今日聞いたけど、いつも飯田君から誘いは来てるんでしょ?」
「だってお前、これどうすんだ」
「うーん…」
これ、とは私と彼の関係のことだ。
私が雄英を卒業したと同時に交際を始めて早7年、私が成人を迎えたのを機に同棲を始めて5年が経つこの関係を知る人は、私と彼と、彼と仲のいいマイク先生しかいない。
高校を卒業してからの交際だから法律的にもなんら問題はないけれど、教師と生徒という関係であった以上デリケートな事として関係が落ち着くまでは周りには言わないようにしよう、と2人で決めていたのだが、そのせいで逆に言い出しにくくなってしまい周囲に報告するタイミングをすっかり逃してしまったのだ。
「でも、消太さんだってみんなに会いたいでしょ?」
「まあな」
「色々言われるのがイヤなら私から皆に報告しようか」
「いや、それはいい」
「…私との事、そんなに皆に知られたくない?」
即座に答える彼に少し不満が募ってつい拗ねた態度をとる私は、彼から見たらまだまだ子供だろうか。
「いや、そういうんじゃないよ」
満遍なく熱が伝わるように優しく髪を掬ってくれていた手に、ぽんと頭を一撫でされる。
「じゃあ、」
なんで?と、存分に不満を表した顔で背後を振り向けば、カチッとドライヤーの電源をオフにした彼がはぁと1つ溜息を溢す。
「おいで、名前」
「ん、」
ぽん、と膝の上を叩く彼に言われるままに一度立ち上がって、2人掛けソファにかける彼の膝の上に向かい合うようにして座れば、腰にまわされた腕にぎゅっと抱き締められる。
さて、どんな風に弁明してくれるのだろう、と恨めしげな目で彼を見下ろしたら、思いがけない返答に拍子抜けした。
「俺はあいつらに合わせる顔がないからね」
「…どういうこと?」
「お前の事好きだった奴らに合わせる顔がないだろ」
「え?」
「…ったく、相変わらず鈍いな」
無精髭に囲まれた薄い唇からまたはぁ、と溜息が溢れる。
「お前結構モテてたんだぞ、気付いてなかっただろ」
「私が?」
なんだそれ。
そんなこと、全く身に覚えのない話である。
「え、え、」
「名前が鈍い奴だったからよかったよ、本当に」
「いやいや、ないない」
「てっきり年頃同士クラスメイトのどいつかと付き合うんだろうと見守ってたんだが、」
轟とか爆豪あたりと、なんてご丁寧に名指しで級友を呼び上げられる。
ただのクラスメイトでしかない彼らとそんな、その、付き合うだなんて考えてみたことすら1度としてないというのに。
「…私は先生しかみてなかったよ」
「こら、名前」
心外な言葉達に頬を膨らませてジトリと彼を見つめれば、思わず出た癖に充血した瞳に見つめ返される。
「消太さんしか、見てない」
「…お前が物好きでよかったよ」
向かい合う彼にコツン、と額をぶつけられる。
小さく笑った唇にふいに唇を重ねられて、ちゅ、と触れ合うだけのキスをした。
コペンハーゲン
カクテル言葉:秘密の愛
(もしこの事みんなが知ったらびっくりするかな)
(…まぁ、だろうな)
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