「ば、ばくごーくん、、?」
「あ?」
ああ、お父さんお母さん、ごめんなさい。
実家を出たのがつい今朝のこと。
寮生活という名の一人暮らしを開始してまだたったの数時間。
蝶よ花よと大事に育てた貴方達の一人娘の狭い自室のベッドの上には、なぜか年頃の少年がいます。
おおかみなんか
こわくない!
〜いんとろだくしょん!〜
私、苗字名前
苗字家に長女として生まれ早十数年…
一人娘として蝶よ花よと溢れんばかりの愛情を受けてすくすく育ち、おかげさまでこんなに大きくなりました。
親元を離れるには本来ならばまだ少し早いけれど、私の夢を全力で応援してくれる優しい両親は「頑張りなさい」と涙ながらに背中を押してくれて、雄英高校全寮制化を認めて送り出してくれました。
今日から新生活の幕開けです。
住み慣れた実家の自室よりは幾分か狭いけれど、今日からはここが私のお城…
そう、私”だけ”のお城のはずなのに。
「いつでも帰ってこられるように」と、実家で使っていた家具は全てそのままにするようにお母さんに提案されて、新生活用に新しく買ってもらった老舗ベッドメーカーのセミダブルサイズのベッドはさっき搬入が終わったばかりでまだ私も一度も乗り上げていないと言うのに。
「ちょっとコレはどういう状況かよくわからないんだけど、、」
「見りゃわかンだろ」
私たちの通う雄英高校指定のジャージを穿いて、上半身はタンクトップ姿の爆豪くんは我が物顔であぐらをかいてくつろいでいる。
家主もとい部屋主である私の真新しいベッドの上で。
「うん?わからないから聞いてるんだけど」
「はっ、アホか」
「だってどうしてヒーロー科一般入試1位の爆豪君がK組の寮にいるの?A組の寮とは1番遠いんだけど」
「ほんとだわ。わざわざ来てやったんだから自分だけ茶啜ってねえでさっさと俺にもだせや」
「勝手に来たのにその言い方!」
いつでも俺様なこの態度の男がこの部屋に現れたのはつい2、3分程前のことである。
朝から取り組んでいた荷ほどきがやっと落ち着いて、昼食も食べていなかったためすっかりぺこぺこになったお腹に取り急ぎお気に入りの紅茶を淹れて一息ついていたところだった。
荷物の搬入で施錠せずにいたドアが勝手に開いて慌てて振り返れば、目の前ですっかり自室のようにくつろぐ俺様何様爆豪様の姿があった。
「にしても面白みのねえ部屋だな」
あぐらをかいて後ろ手をついた爆豪くんはぐるっと部屋を見渡して悪びれる様子もなく失礼な言葉を吐き捨ててくる。
シモンズ社製の最高級のマットレスはよく沈んで爆豪くんの筋肉質な体を受け止めている。
「…お茶いらないの?」
「別に想像通りだなって言ってるだけだろが」
「そうは聞こえませんでしたけど!」
大人しく彼のペースに飲まれるのはなんだか尺で文句を言いつつも、せっかくとっておきのエンペラーズブライドの茶葉で淹れた紅茶を冷ましてしまうのは勿体無いし、ブランドカラーのブルーが可愛いティファニーのマグカップにしぶしぶと彼の分の紅茶を注ぐ。
受け取りに来る様子のない爆豪くんにマグカップを手渡すためにベッドの上でくつろぐ彼のもとに歩み寄って、自分もベッドの淵に浅く腰掛ける。
うん、やっぱりマットレスはシモンズが1番。
「はい」
「おう」
「あ、熱いから気をつけてね」
「そんくらい大丈夫だわ」
「はいはいそうですか」
両手に持ったカップの、まだなみなみと熱い紅茶の注がれた方を爆豪くんに手渡す。
「で、今日は何しに来たの」
「あ?」
新築とはいえ引っ越し作業は埃っぽいもので、空気を入れ替えるために開けていた窓からはすっかり落ちかけた夕日がショーンベック社製のシャンデリアにきらきら反射して輝いている。
「別にフツーだろが」
「だからなにが?」
きらきら輝くシャンデリアから光を浴びた蜂蜜みたいな彼の金髪は艶艶眩い。
すっかり忘れていたけれど、爆豪くんって意外と端正な顔立ちしてるんだっけ、なんて初めて彼を見た日のことをふいに思い出す。
「自分の部屋にいンのはフツーだろが」
「…は?」
訂正。
ああ、お父さんお母さん。
どうやら私が間違っていたみたい。
蝶よ花よと大事に育てた貴方達の一人娘は、年頃の少年の部屋にいるみたいです。
2人っきりで。
「いや、わけわかんないから!」
to be continue!
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