今日は少し私の話をさせてください。
あ、あらためまして苗字名前です。御機嫌よう。


みなさんもうお気づきではあると思いますが、私はヒーロー科の生徒ではありません。
雄英高校といえば誰もが真っ先に思い浮かべるのはヒーロー科だし、事実これまで大勢のヒーローを輩出してきたヒーロー教育の名門校なわけだからまあそれは当然なんですが、とはいえ私はヒーロー科入試に失敗してすべりどめで受けた他科に進学した、というわけではなく。


重ね重ねもうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、私は世間一般でいうところのいわゆるお嬢様、というやつらしいです。
”らしい”、というのも、国立公の雄英高校に進学する前はずっとエスカレーター式の女子校を学び舎としてきたので、これまでは自分を取り巻く環境は世間一般のところでいう”普通”とはだいぶちがうということに気がつくことがなかったのでした。


私の父は若手からベテランまで、多くのヒーローが所属する事務所を営むいわゆる社長さんです。
一般的にはヒーローが自分で独立開業して設立することの多い事務所だけれど、父はヒーローではない経営者という一風変わった経歴の持ち主で、業界ではそこそこ有名人だったりします。


父の経営する事務所は、資金面や実績不足で独立するにはあと一歩及ばない若手ヒーローを集めて設立したのが始まりだったそうです。
幼い頃からヒーローになることを志しながらも目が出ることのなかった父は、それでも何かヒーローに携わる仕事がしたいと試行錯誤をした結果、個性には恵まれなかったもののビジネスの才には恵まれていたようでこれが大当たり。
「サイドキックをするより高収入、独立へのサポート体制もある」という売りで瞬く間に拡大した事務所のおかげで父は一代にして富を築き上げました。
しかし当初はそんなキャッチコピーで売り出した事務所も、恩義を感じてくれたりでずっと父のもとでヒーロー活動をするヒーローもいたりして、今となってはベテランヒーローも多数所属する事務所に順調に成長し、今日の日までやってきたというわけです。


…と、ここまでは私ではなく私の父の話でしたが、みなさんもう私の夢はお分かりになったかと思います。
1年K組苗字名前、私の夢は父の跡を継ぐ立派な経営者になる、ということ。
いえこれは、夢、なんて言葉で片付けられるものでは決してないのです。
一人娘として苗字家に生まれた私の宿命とでもいいましょうか。
そんなわけで業界異例の経歴を誇る父の後継として名に恥じぬ経営者となるために、幼稚舎から通ったエスカレーター式の女子校を離れて1人、ここ雄英高校経営科に進学してきたというわけです。


これまでずっと女子校で育ってきた私にとって、雄英高校に入学してからはそれはもう驚きの連続でした。
父の立場柄社交の場にでることは子供の時から多かったので女子校育ちとはいえ男性には苦手意識は特段あったわけではありませんが、父のまわりの男性はみなさん紳士でしたし、そのご子息達も同様でした。
だから私は体育祭のあの日、開会式で1年生代表として開会宣言をする彼の姿に驚いてしまったのです。
名門ヒーロー科の入試トップという成績でありながら、大変粗暴な態度の爆豪勝己という男の存在に。


経営科はその特性上体育祭では目立った活躍はできずに早期で戦線離脱してしまうのが毎年の恒例で、しかしK組の担任の先生はそんな私達にも何か体育祭に意義を、という計らいで、ある課題をくださっていました。


『自身で目をつけたヒーロー科の1年生の誰か1人を仮にマネジメントするとしてプランをレポートにまとめること』


あの時の私は少し血迷っていたというか、もし今あの時に戻れるのなら、大人しく爆豪君のクラスメイトである轟くんあたりのことでもレポートしておきなさい、と今の私はあの時の私を必死に止めるでしょう。
そう、あの時の私は彼、爆豪勝己をその対象として選んでしまった。
私たちのこの奇妙な関係のすべての元凶はそこにあるのです。



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