「静粛に!皆、グラスを持ってくれたまえ!」


自席のそばに座った久々に会う元級友と各々が楽し気に話す中、委員長こと飯田君がガタっと席を立って統制をとる。
手をカクカクと動かしながら大きな声で呼びかける飯田君はあの頃から変わっていない。


「いや、グラス持ってないの飯田だけだって」
「…なんと!」
「お前変わんねえなー!」


茶々を入れる上鳴君も瀬呂君も、あの頃のまま。


「これは失礼…では、改めて。こうしてまた全員で無事に揃えたこと、非常にうれしく思う。今日は…「飯田話なげぇ!カンパーイ!!」


飯田君の挨拶を遮って勝手に乾杯の音頭をとってしまう切島君もだ。


グラスを合わせるちんっ、という軽快な音が鳴り響いて、毎年恒例元雄英高校1-Aのクラスメイト勢ぞろいでの同窓会がスタートした。


「名前ちゃん、久々やねえ」
「あ、お茶子久しぶり。前回の同窓会ぶりだね」
「だって名前女子会呼んでも来てくれないじゃーん!」
「あはは、みなごめんって。うちのボス気まぐれでいつ呼び出しかかるかわかんないからさ、なんかいつも気が気じゃなくて」
「皆名前ちゃんに会いたがっていたのよ」
「ごめんね梅雨ちゃん、私もみんなに会いたかったよ」
「今度の女子会は久々に我が家でお紅茶の会にしようと思っていますの!ぜひ苗字さんもいらしてください」
「あ、百の実家なら次回は行こうかな」


座席はいつも自由なこの会だが、いつも比較的きっちり時間前行動をするタイプの女子達ばかり先に集まってしまって、大体スタートは男子そっちのけで女子会が繰り広げられる。


「でも、久々だけどみんな変わらないね。やっぱ安心する」
「そうかなー?みんなヒーローの顔つきになったと思わない?」
「透、あんたはかわらないしわからないよ」


響香のツッコミも、きゃぴきゃぴ話す透もみんな変わらない。
そして、大体いつも文句を言ってくるあいつも、だ。


「おい女子!お前ら女ばっかでたまってんじゃねー!空気読め!」
「峰田、うるさい」
「耳郎、お前は女子じゃねえ」
「まあ峰田さん、耳郎さんは素敵なレディですわ」


相変わらず女子にちょっかいかける峰田もあの頃のままで、この懐かしい光景に思わず笑みがこぼれる。


くるっと室内を見渡せば、透がいうように確かにみんなヒーローらしい顔つきになってすっかり頼もしい体格になっているのだけれど、楽しそうに談笑する表情はあの時と変わらない。


まるで昨日のことのように思い出される雄英高校で過ごした3年間は、今こうして各々がプロヒーローとして活躍する原点だ。
初心を忘れないためにも、日々の活動の英気を養うためにも、この場は皆のたまの楽しみとなっていて、「ここは委員長として!」なんて張り切って幹事を引き受けてくれる飯田君のおかげで毎年こうして同窓会が開催されている。


「おい女子!席替えだ!」
「あーはいはい、じゃあ私ちょっと移動しようかな」
「そうね、私も皆のお仕事の話を聞きたいわ」


峰田が言うとなんだかちょっと変な意味に聞こえるし実際そうなんだろうけど、それぞれがプロとなってからはなかなか集まれなくなってしまったのが現実で。
こうして集まる貴重な機会だ。公私含めてそれぞれの近況を聞いておきたい。
現に一見あの頃のままに見える峰田だって、キャラクターみたいな見た目とポップなヒーロー名で結構子供受けがいいらしいし、当時から突出していた面々は予想通りテレビで見ない日はないほどの人気ヒーローとなっている。


憧れの制服を身にまとって初めて雄英に踏み入れたあの日からもう10年もたっているのだから、皆大人になったことは当然のことではあるのだけれど。


「えー、名前ちゃんと梅雨ちゃんもう行っちゃうん?」
「ごめんねお茶子。次回の女子会行くから、今日はみんなの近況聞いてくるよ」


私は手元にある乾杯用に頼んだ生ビールを飲み干して席を立った。



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