「怖かっただろう、かわいそうにね」
「…すみません」
「おやなんで謝るんだい。謝られるより礼を言われたいね」
「ありがとうございます、リカバリーガール」


あのあとすぐに現場に先生たちが駆けつけてくれて、A組の担任の相澤先生の個性ですぐに犯人は姿を現した。
犯人は異形型ではなくて発動型の透過の個性を持った者で、驚くことに1学年上の普通科の先輩だった。
入学してすぐの頃にあまり接点のない先輩から突然告白されて断ったことがあったのだけれど、その先輩が逆上して個性を利用したストーカー行為に及んでいたとのことで、まさかの面識のある人物の犯行であったことへのショックに言葉を失った。


「でも無事でよかったよ」
「はい…」
「君も、とっさの判断でよく助けたね」
「はい」


学校内で起きた事件ではあるものの長きにわたる悪質な行為とのことで先生方が警察を呼んでくれて、先輩は警察に連行されていった。
私もその場で事情聴取を受けたけれど、今は取り急ぎ心身のケアをと気遣ってもらって轟君の付き添いで保健室を訪れたところだ。


「大きな怪我はないけど疲れただろうから少し休んでおいき。私は先生方に容体に異常がなかったと伝えてくるからね」
「あ、はい」


幸い大きな怪我はなかったものの、強くつかまれて膝と首にできてしまった痣と地面に崩れ落ちた際に擦りむけた膝に処置を施してもらって、少しだけ重たくなった体を保健室のベッドに預けさせてもらう。


「君、私が戻るまでこの子に付き添ってあげるんだよ」
「わかりました」


そう言ってリカバリーガールは保健室をあとにして、私は轟君と取り残された。


「あの…ありがとう」
「ああ」


白くて無機質な保健室は2人きりで過ごすには広くて、壁掛け時計の秒針の進む音がやけに大きく感じる。
轟君は私の休んでいるベッドの横に置かれた椅子に腰かけて、何をするでもなく付き添ってくれている。
少し休んだらだいぶ気持ちも落ち着いて、さっきは気が動転していてお礼すら伝えていなかった事に気が付いてありがとうと伝えれば、私のイメージする彼らしいそっけない返事を返された。


「えっと…私もう平気だから、轟君は寮に戻って大丈夫だよ」
「そういうわけにもいかねえだろ」
「でも、もう遅いし…」


助けてくれたのが憧れの轟君で嬉しいやら、情けない姿を見られてしまって恥ずかしいやら。
こんな時に不謹慎かもしれないけれど、憧れの人と2人きりでどうしたらいいのかわからない。
私みたいに個性のない凡人が、ヒーロー科推薦入学者…つまり学年トップと言っても過言ではない彼とどんなふうに接したらいいのだろうか。


「…苗字名前」
「え?」
「だっけか」
「う、うん」


夕飯も食べずに付き添ってくれた轟君に寮に帰るように促すもあえなく却下されてしばし沈黙が続く。
轟君はなんであの時あの場にいたんだろうとかご飯は何が好きなのかとか、気になることはいくらでもあるけれどこの空気の中何を話せばいいのか頭の中でぐるぐるといろんなことを考えていたら沈黙を破ったのは轟君の方だった。
突然呼ばれた名前に、私の名前を憶えていてくれたことへの嬉しさとか、なんで覚えていてくれたのかとか、変な期待をしてしまいそうな自分をふるふると首を小さく横に振って戒める。


「お前、麗日と仲いいんだろ」
「うん。お茶子ちゃんとは幼馴染で…」
「この事相談しなかったのか?結構前から悩んでたんだろ」
「あ…うん。自意識過剰かもしれないって思って、この事は誰にも話してなかったから」
「なるほどな」


結局いろんな人に迷惑かけちゃったけど、とごまかすように笑えば呆れたようにため息を返される。


「でも、もし何かあってからじゃ大変だったろ」
「う…」
「そっちの方が麗日だって悲しむ」
「…ごめんなさい」


轟君の言うとおりだ。
特にお茶子ちゃんは人が好いから、ヒーローを目指している中友達1人守れなかったら絶対に自分のことを責めてしまうに違いない。
心の中でごめんね、とお茶子ちゃんに謝って、目の前の轟君にも頭を下げる。


「これからは気をつけろ」
「はい」
「何かあれば俺が助けてやるから」
「はい…って、え?」


これからは何かあったらちゃんと周りの人に相談しよう、何より雄英にはプロのヒーローの先生方だっているのだから。
そう深く反省して轟君の言葉に頷いていたら、かけられた言葉が一瞬うまく呑み込めなくて思わず聞き返す。


「だから、これからは俺が助けてやる」


そう言って私の頭をぽんと一撫でした轟君は優しい顔で微笑んでいる。

「え、えっと…」


私は混乱してうまくまわらない頭を一生懸命働かせてこの状況についていくことで精一杯だ。
しかしどう考えても理解できないこの状況に、リカバリーガールの治癒の副作用の疲労も相まってクラクラと眩暈がして私は目を閉じた。



ひまわりとやくそく



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