「…」
「私、見ちゃったの。…この間の日曜日」


私が切り出した言葉に返事をするでもなくただ静かに目を見開いた彼に、ぽつぽつと先日の出来事をありのままに伝える。


「…綺麗な人だったね。私じゃ敵わないよ」
「いや、」
「だから、もうやめよう」
「違う、名前」
「…違うって。なにが違うの」


だって私は間違いなくこの目で見てしまったのだ。
真剣な表情で私の目を見る焦凍くんの目を見つめ返せば、彼のオッドアイには私が映っている。


「名前、誤解だ」
「え…?」


焦凍くんは私の話に慌てる様子もなくただ淡々と違うとだけ言って、大きなため息をついた。


「でもっ…」
「ああ。たしかに日曜日俺は女といたのは間違いないし、あいつはうちに来た」
「ほら、やっぱり、」
「でも、あいつはただの学生時代のクラスメイトだ」
「クラスメイト…?」


でも、じゃあどうして家に?


腑に落ちない表情をする私の考えていることがわかったのか、焦凍くんはふっと口元を緩めて少し待ってるよう私に言い残してキッチンに消えていく。
カタカタと物音がしてほどなく、戻ってきた彼の手にはトレイが握られてその上には蕎麦と色とりどりの季節の野菜が天ぷらになって鎮座していた。


「俺料理できないだろ。だから、教えてもらってた」
「…」
「仕事って嘘ついたのは悪かった。でも、名前の誕生日に間に合わせるには自力じゃ間に合わねえと思って頼んだんだ」
「ふぇ…」


勘違いだったとわかった安心と攻め立ててしまった彼への申し訳なさと、混じり合った感情がぐちゃぐちゃでまた涙がぽろぽろ溢れ出す。


「ごめんなさい…っ、私…」
「俺こそ勘違いさせてごめんな。…名前、いつもありがとう」


私のために一生懸命してくれたことだと知らずに散々に攻め立てて、先ほど切り出してしまった言葉を弁解したくて口を開けば、手にしていたご飯をテーブルに置いた焦凍くんが近付いてくる。


「ハッピーバースデー」


溢れる涙を頬に添えられた右手の親指で拭い去られて、軽く触れるだけのキスを落とされた。



bon appetit!



(ごちそうさまでした。焦凍くん、すっごくおいしかった)
(実はケーキも作ったんだ)
(わぁ!いただきます)
(どうだ?名前、甘いの好きだろ)
(…しょっぱい)



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