誕生日プレゼント(ザネリさんへ/ミクリ)
「はあ。」
ぶちり、ドライヤーのコンセントを引っこ抜いて溜め息。別に疲れている訳じゃない。ただ、なんとなくあのエメラルドグリーンを思い出してしまっただけ。
「明日、・・・明日、かあ。」
ベッド脇の時計を確認すると、日付が変わるまで5分を切っていた。
明日は1日約束がある。
仲のいい友人達とケーキを囲むのはとっても魅力的。たった1人の誰かと食べるケーキより美味しそうで、楽しそうだ。人数の問題では無いとは思うけれど、やっぱりお祝いの席は人数がいた方が嬉しいに決まっている。
ところが私は明日1日、たった1人の男と過ごすのだ。だけど不満はこれっぽっちも感じないし、むしろ嬉しいとさえ思う。
そんな考えに恥ずかしくなり、枕に顔を埋める。そうだ、このまま寝てしまおう。明日は早い。それにせっかくの1日、お洒落に手を抜きたくはない。
枕から顔だけ起こして直ぐ脇にあるリモコンを取り、電灯に向けた。
キイ、
「!!」
「誕生日おめでとう!」
「・・・あ、りがとう?」
驚かせることを目的としない程ゆったりと開かれた扉。その先にエメラルドグリーン。
「・・・驚いた?」
「・・・驚いた。ていうかミクリ、えーと何で、え?」
混乱した頭はそのままに、とりあえず身を起こす。ミクリは相変わらずにこにこと機嫌が良さそうな顔のままだったが、長細い綺麗な指をこれまた綺麗な動作で動かして時計を差していた。
「12時、ちょうど。」
「そう。だからおめでとう。」
「・・・いつから、居たの。」
「・・・10時半。君がお風呂に入ってるときに、ね。」
「・・・外には、何時から居たの?」
「・・・さあ、何時でしょう。」
外には、を強調して問うとミクリはようやっと笑みを苦笑いに変えた。本当に、何時から待っていたんだろうこの男。合鍵を渡してあるから入ってきても何ら不思議はないけれど、時間も(ストーカー紛いの)行動も問題ありありだ。
しかし当の本人はごく自然な動作でベッドに腰掛け、また笑みを戻していた。そんな問題ありありなミクリを許して(それどころか可愛いなんて思って)しまう私も問題ありありかもしれない。
「まあ、目を瞑ろういろいろと!」
「ありがとう。じゃあ、私も目を瞑るね、君が嬉しがってることとか。」
それは目を瞑っていない、という言葉は飲み込んでおく。墓穴を掘るだけだ。
「それより、誕生日は約束してたでしょう?何でわざわざ真夜中に・・・」
「それだよ。」
そう言ってミクリは再びベッド脇を指差した。その先に視線を移すと、ポケナビがチカチカと光っていた。光の色からするとメールだ。恐らく誕生日メールだろう、友人達にミクリと過ごすと言ったものだからメールにしたようだ。きっかり12時なんて嬉しいな、手を延ばすとその手はミクリにがっちり捕まえられてしまった。
「・・・ミクリ?」
「やっぱり来てよかった。」
何がやっぱりなのかさっぱりわからない。それが顔に出ていたのだろう、ミクリは小さく溜め息を吐いてから再び口を開いた。
「そのメール、誕生日メールだろう?」
「あー、うん、多分。」
「1つのメールに、私のおめでとうの一言よりもたくさんの言葉が並べられている。」
「まあ、誕生日に1行メールはないかもね。」
「だから私のおめでとうを全部聞いてからにして欲しい。」
なんて臭いセリフを真顔で言うんだろう。恥ずかしい男め。恥ずかしすぎて私の方が頬が熱くなる。ミクリは再び綺麗に微笑んで(ずるい、その顔。)私を強く押した。
「・・・ミクリサン、おめでとう、は?」
「私の愛は重すぎてね。言葉だけじゃどうも伝わらないみたいなんだ。」
天井をバックにしたミクリは綺麗だった笑みをにやりと嫌な笑みに変えた。視界の端の彼の手が電灯のリモコンに延びる。止めようにも私の両手は何時の間にかミクリの片手に拘束されていた。
誕生日プレゼント
(これじゃあどっちのだか)
(わからない!)
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