この課には、とんでもない小悪魔が存在する。
「諸伏さぁん? 私が今、案件七つ受け持ってるの知ってますよねぇ?」
見慣れたコールナンバーにすぐさま反応した私は、相手が口を開く前に牽制した。
抱える案件の全てが、諸伏さんからの依頼だ。私は彼専属ではないというのに。
電話しながらも、指先は彼のためにキーボードを打ち続けている。
『し、知ってます。でも、この件にはあなたの力が必要なんです』
こう言われて、私が嬉しくならないはずがない。
本当に、諸伏さんは狡い言い方をする。しかも胸を高鳴らせる色っぽい声を出すものだから、私はため息を吐きそうになった。
彼に自覚がないからこそ、ひどく厄介なのだ。
「……わかりました。詳細をお願いします」
『ありがとうございます!あなたが所有する全てのアカウントで、渋谷の廃ビルでガス漏れというガセ情報を流してください。写真と地図は今メールしました。それから爆発物関連の情報が流れていないかと、防犯カメラの映像も念のため確認をお願いします』
「はぁい。がんばりまぁす」
『ええ、頼りにしてます』
「……っ」
天然のタラシだ。これを小悪魔と言わずして、何と言えようか。
静かに通話を切られた途端、頭を掻き毟りたい衝動に駆られてしまう。
「んきぃぃぃッ!」
私は毛根を痛めつける代わりに、キーボードに悲鳴を上げさせた。