北風がマフラーと首筋の間に入り込み、私は反射的に首を竦めた。
「さっむ〜。松田、もうすぐ着くって言ったのに遅いじゃんよぉ」
仕事が終わってないから遅れる、と松田から連絡があったのは今からおよそ二十分前。その時、私は待ち合わせ場所である駅まであと数駅と言うところだった。
カフェに入って彼を待つには時間が短すぎる。私は少し逡巡して、改札を出てすぐのコンビニで時間を潰すことにした。そうしてゆっくりと店内をねり歩き、コンビニ限定のコスメを物色していると、松田から到着予定の連絡が来たのだ。
今は、改札がよく見える位置にあるガードレールに寄りかかって、行き交う人々をぼんやりと眺めている。コンビニで温められていた身体は外に出た途端に冷たくなってしまっているので、まるで雪女みたいだ。
冷えた指先に息を吐きかければ、辺りに白い靄がかかる。その向こうで、改札から出てきた人々の中に見覚えのある癖毛が現れたのを、私は見逃さなかった。
「松田っ!」
私の声はよく通る。松田は一発でこちらに気づき、駆け足で近寄ってきた。
「わりぃ。なっかなか報告書が書き終わんなくてよ」
「松田って昔っから書き物苦手だよね。待ちくたびれて先に店に行こうかと思ったわ」
「悪かったって。ってかお前、鼻真っ赤じゃん。トナカイみてぇ」
松田が私の鼻先を指して意地悪げに笑うので、私は頬を膨らませた。誰のせいでこんなに冷えていると思っているのか。
「む、しょうがないじゃん。寒いと赤くなる体質なんだってば。ほんと、松田は寒くてもいっつも全然顔色変わんないよね〜。羨まし〜」
松田の鼻を指し示してみる。しかし距離を見誤ってしまって、鼻先をツンとつついてしまった。
「あッ」
「うぉっ、指も冷てぇな」
予想外の出来事に硬直した私の手を、無骨な手で包み込んだ。手のひらの温かさがじんわりと伝わってきて、早くも血の巡りがよくなったような気がする。
「松田の手って、あったかいんだね」
「おう。暖房ガンガンの電車に乗ってたってのもあるけど、元からな」
ほらよ、と松田は私の手を握ったまま自身のコートのポケットに手を突っ込んだ。
「えっ! なに、なに!?」
「何って、突っ込んでないよりマシだろ。せめて片っ方でも店に着くまであったまってけよ」
松田がそう言って歩き出すものだから、手を繋いでいる私も必然的に足を動かすことになる。なかば強引に引きずられて、反応を示すタイミングを完全に失ってしまった。
しかし反応といっても、どういうリアクションをしたらいいのか分からないから、これがある意味正解なのかもしれない。
余計なことを言わないように唇を引き結んでいれば、自分の片手の在り方に自然と目が行く。松田のコートのポケットは二人分の手で、もっこりと膨らんでいる。それがなんだか胸の奥をくすぐった。
松田とは友達と期間が長かった分、恋人らしい触れ合いが照れくさく感じる。心の浮つきに耐えられなくなって、訳もなく叫びだしたくなるくらい。
これでは寒がるどころか、暑がってしまいそうだ。
平然と恋人の手を取って自分のポケットに導く松田が恨めしい。私はこんなにソワソワしてるのに、と斜め後ろから彼を軽く睨みつけた。
そこで私はとあることに気づき、小さく声を漏らす。
「ぁ……」
癖毛の隙間から見える耳。そこの血色が異様によくなっていた。
きっと、私と手を繋いでいるせいに違いない。可愛いところもあるものだ。
私はにんまりと唇の場所を吊り上げ、ポケットの中で指先を彼のそれに絡ませた。