事件の後処理に追われている中、萩原は辺りを見渡した。目的の人物はいくら探しても見当たらない。
どうやら目的の人物である相棒はサボリのようだ。
「ったく……。わりぃ、ちょっと席外すわ!」
パソコンにロックをかけ、隣席の同僚に一応伝えておく。
萩原は短く息を吐いて相棒の捜索の旅に出た。煙草の箱を片手に持って。
こんな時は決まって屋上にいる。だが今日は生憎の雨だ。そうなると、野良猫みたいな彼の居場所は限られてくる。
萩原は非常階段に続く錆びついた扉をギギッと押し開いた。
降り注ぐ雨の音と、ふわりと漂う紫煙の香り。ビンゴ、と萩原は自分の推測を褒め称える。
松田は踊り場の壁に凭れかかって煙草をくゆらせていた。
「陣平ちゃん、こんな忙しい時にサボってんなよ」
「……サボりじゃねぇ。煙草休憩だっつの」
「えー? 屁理屈〜!」
からかようにケラケラと笑っても、松田はこちらを見ることはしない。サングラスをしていない目元は前髪で隠れていて、その横顔は哀愁を帯びていた。
萩原は煙草を一本取り出し、松田の前にチラつかせた。
「俺にも火ぃ、ちょうだい?」
「ああ」
「あ、違う。そっちじゃないよ」
松田がゴソゴソと胸ポケットを探っていた手を止める。そして不思議そうに萩原を覗きこんだ。
やっと俺を見た、と萩原は目を細めてゆっくりと煙草を咥えた。
「こっち……」
「は?」
唇から煙草を離そうとした下顎を掴み、火の付いている先端へと、自分のそれを押し当てた。煙草二本分の距離で見つめ合う。
松田の目は赤くなっていなかった。むしろ睨まれている。らしいな、と喉の奥で笑った萩原はそっと離れた。
強引に分け与えてもらった火をぼんやりと見つめて、煙を吸いこんだ。
「……っ」
不味い、と萩原は眉を顰めて深く吐きだした。
こんなに苦いのは久しぶりだ。もう吸う気にもなれなくて、片手で持て余す。
先端から、ゆらゆらと上がっていく紫煙に想いを馳せた。
「……いっぱい、死んだな」
萩原の声かけに松田は返事をしなかった。けれども気持ちはきっと同じだ。
松田は萩原と同じようにそれが消えていく様を見ていた。
雨の音と白い煙、ほろ苦い香り。もう少しだけこのままでいいか、と萩原に思わせるには十分だった。