カランカランとポアロの扉が軽快に来客を告げた。
「安室さん、こんにちはー!」
「あ、もういい匂いがしますね!」
「いっぱい食おうと思って、オレ腹空かせてきた!」
今日も元気いっぱいの少年探偵団。
彼らにミートソースの改良を手伝ってもらおうと、安室は時間を指定して呼んでいたのだ。準備をしていた手を止め、営業スマイルで小さなお客様たちを出迎える。
「いらっしゃい、待ってたよ。カウンターへどうぞ」
三人は元気よく返事をして、続々と中に入ってくる。そして彼らの後ろにいたコナンが入店すると、その後ろから背の高いハイネックの男が姿を現した。
「……っ」
安室は小さく呼吸を乱した。それを見たコナンがワタワタと焦りながら説明してくれる。
「す、昴さんはね、付き添いで来てくれたんだよ!」
「ええ、そうなんです。だから、いないものだと思って気にしないでください」
そう言って沖矢は入口側のカウンター席に座った。
堂々と近くに座られて、いないもの扱いなんてできるはずがない。あまりの厚かましさに、安室の口角が引きつった。
「いやいや……。そしたら沖矢さんもぜひ試食をお願いしますよ」
「そんな、悪いですよ」
言葉では遠慮しているものの、既に食べる気配を滲ませている。
「少し作りすぎてしまったので、どうか遠慮なさらず!」
赤井め……、と心の中で舌打ちをした安室は強引に会話を終わらせた。作ってあった三種類のミートソースを小皿に取り分け始める。
ふたりの間に流れる何とも言えない空気が断ち切られたことに、コナンは安堵のため息を吐いた。
五人の前に三枚ずつ置かれた白い皿には、三種類のミートソースがよそわれていた。
「お待たせ。右側から順番に食べてみて」
安室に言われて、それぞれが試食を始める。口に含んだ瞬間、子どもたちの目が輝きを増した。
「美味しい! なんか甘いね」
「人参さんがいっぱい入ってる〜!」
よく気のつく子たちだ、と安室は笑いながら説明した。
「そう、人参を多めにしてるんだ。甘いのは人参の甘味だよ。……そして真ん中のソースには醤油で漬けたニンニクを細かく刻んであるから、これはちょっとしょっぱめ。香りも違うんだ」
「そうなんだ! ……あ、ホントだ。こっちも美味しい〜!」
次から次へと口に運ぶ子どもたちの意見は大変素直なので、ありがたい。どの味も美味しいと言ってパクパク食べてくれるからか、ソースを選択制にするのもありかな、と安室は考えた。
そして、あまり意識しないようにしていた端の席を横目で確認する。黙々と真ん中のものを食べていた沖矢は最後の皿に移るところだった。
左手でソースを掬い、口の中に含む。すると少し戸惑うように手を顎に添えた。
「沖矢さん? どうかしたんですか?」
「いえ、最後に食べた物が一番好みだと思いまして」
「……そうですか」
安室はニコリと笑って沖矢の前にある二枚の丸皿を片付け始めた。白いそれに描かれた臙脂色を泡で覆って綺麗に落としていく。
沖矢はその様子が何やら嬉しそうだと感じたが、ジロジロと見てしまうとまた吠えられそうなので、残りを食べるべく手を動かし始めた。
沖矢もとい赤井が気づいていない真実。
それは『一番好みだ』と言っていたあの味はライに食べさせたことがあるということ。
眉ひとつ動かさないで食していた不愛想な彼がそう思っていたのだと分かって、安室は嬉しかった。