闇夜に包まれた河川敷。視界の悪さからか、視覚以外の器官が大きく働いたらしい。
風見との報告会も終わり、降谷が立ち去ろうとした時だった。降谷の背中にぽそりと問いが投げかけられる。
「そういえば……、降谷さんって煙草吸いましたっけ?」
その言葉に、ドキリと心臓が跳ね上がった。
背後で風見が息を呑んだような気配がする。もしかしたら、思っていた以上に表に出てしまったのかもしれない。
「……なぜ?」
降谷は肯定も否定もせず、ゆっくりと風見を振り返る。
暗くてよく見えないはずだが、そんなに怖い顔をしていたのだろうか。
緊張状態にある風見を軽く笑って、怒ってないから、と柔らかい声色で答えを促した。
「……その、貴方からいつもと違う香りがしまして。煙草と……、シャンプーの……混ざったような……?」
「……はぁ、そうか……」
顎に手を添えて考えこんでいる風見はこの環境だからか、警察犬の如く敏感な嗅覚を持っていた。さすがだ、と褒めるべきなのだろうが、今回ばかりは気づかないでもらいたかった。
手で顔を覆い、深いため息を吐く。
「…………駄犬め」
優秀な右腕と比べてあの恋人ときたら、とつい舌打ちをした。
ここに来る前に赤井と会っていたのだ。
たまにしか逢瀬を重ねられないことによりフラストレーションが溜まっているか、赤井は甘えるように頭をぐりぐりと肩口に押しつけてきた。その時の香りが移ったのだろう。
風見はいつまで経っても顔を上げない降谷におどおどしてしまっていた。
「……あ、の? 降谷さん……?」
「いや、すまない。教えてくれて助かった。……また連絡する」
風見に顔を見せることはせずに車に乗りこんだ。
この暗闇なので見えはしないだろうが、念のためだ。怒ったような、照れたような、こんな情けない降谷零の表情は赤井にしか見せられない。
「……絶対禁煙させてやる」
シャンプーはともかく、とインカムを装着した降谷は迷わず電話を掛け始めた。