「あれ? かざ、じゃなくて飛田さん?」
不意に、聞き覚えのある子どもの声が下の方から聞こえてきた。
風見は声の出所を探るように首を曲げる。すると、利発そうでいて無邪気さも持ち合わせた顔立ちの少年と目が合ってしまった。
「君は……!」
江戸川コナンだ、と風見は少年の存在を認めた途端、肩を思いっきり強張らせた。そして一歩だけ下がって、コナンを警戒する。
コナンはそんな風見の様子をきょとんと見ていたが、風見の行動の理由に思い至ったのか、少年は少年らしからぬ苦笑いを浮かべる。
「そんなに警戒しないでよ。今日は何もしないから」
「今日はってことは、以前したことを認めるんだな?」
「えへへ〜」
可愛らしい笑みを作って誤魔化すコナンは、本当に年相応に見えない。聡明さで言えば、大人顔負けだ。
風見の上司である降谷が彼を事件に巻き込む理由。それが、なんとなく分かったような気がした。
風見が眉間に皺を寄せながら考え込んでいると、コナンはそっと近寄ってくる。
「ああ、やっぱり。飛田さん疲れてるでしょ。目の下にクマができてる」
「そんなことは……」
「目に見える証拠があるのに否定されても信憑性がないけど?」
「そ、そうか」
咄嗟に否定してしまったが少年の言う通りだ。
どうやら本当に疲れているらしい。思えば、ベッドで寝たのは何日前のことだったか。
「飛田さん、ちょっとそこの公園のベンチで横になりなよ」
「え? いやそんな時間はっ!」
「安室さんにはボクから言っておくから!」
ほら、とコナンが風見の指先を掴む。
「っ!」
思っていたよりも小さな手だった。振り払ったら簡単に壊れてしまいそうなくらいに。
「何を……! こら、駄目だっ!」
上司にあれほど、この少年には気をつけろと言われてた。
自分でも警戒すべきだと分かっている。しかし言葉とは裏腹にこの手を振り払えずにいた。
庇護すべき子どもだから、自分は警察官だから、なんて言い訳じみた理由が頭の中に浮かんではすぐさま消えてゆく。
小さくて柔らかい手のぬくもり。それが風見の建前を脆くさせるのだ。
「まったく。少しだけ、だからな」
「ははっ! 安室さんから連絡があったらすぐ起こすよ」
コナンが指に力を入れて、風見を公園へと導き始めた。風見は流されるがまま、ひょこひょこと揺れる癖毛を目で追いながら少年についていくしかない。
コナンの指先にある毛細血管の鼓動がこちらに伝わってくるようだ。それが心地よく、抗いがたい。
どんなに御託を並べたところで、このぬくもりを離したくないと願ってしまった時点で風見の負けは決まっていた。