見上げた先にいたそいつに俺は目を瞬かせる。

いや、何でいるんだよ…
さっき逆側に行っただろ…

驚いている凛を見なかったことにして、顔を伏せる。
まぁ、そんなこと許されずヘッドホンを奪われた。

「返せ」
「お前、まだこんな大音量で音楽聞いてんのかよ…」

外されたヘッドホンから聞こえる音に凛が呆れたように言った。
「別にいいだろ」
「耳悪くなるぞ」
「…別にいい」

頭上から聞こえた溜息に小さく舌打ちをする。

「聞こえてんだよ、舌打ち」
「…めんどくせぇな、お前」
「はぁ!?」

放り投げられたヘッドホンを受け取って、首にかける。

「お前なにしてんだ?」
「水着買いに来た」
「…水泳部入ったのか?」

少し嬉しそうな声になった凛。
「まぁな」
「散々入らねェって言ってたくせに」
「約束を思い出しただけだ」

凛が首を傾げる。
「誰との?」
「…兄さん」
「あぁ…そういや、どうしてる?お前の兄貴」

凛の質問に俺は目を逸らす。
「朱希?」
「関係ねぇだろ…お前には」
「…なんだよ、それ」

関係、ない。
俺だけが…背負えばいい。
右手で心臓の上あたりの服を掴む。

「…朱希、俺のこと嫌いになったのか?」
「え?」
「だから、俺の前から消えて…俺に忘れろとかいうのか?」

一瞬見えた瞳には涙が浮かんでいたと思う。
俯いてしまった彼の顔を髪が隠す。
顔を覗きこもうとするが横に反らされた。

「俺が…お前を好きになったから…」

酷く小さな声で言われた言葉に、俺は凛から目を逸らす。

「だから…朱希は…」
「それが原因じゃねぇよ…。そりゃ俺は返事はしてねェけど…」
「だったら、何でだよ…お前、俺が言ってすぐに消えたじゃねぇか…」

いや、確かにタイミングは同じだったけど…
「凛…」


俺が口を開こうとしたときに鳴り響いた着信音。

空気を読め。
いや、逆に読んだのか?
まぁ、どっちにしろ気まずい。


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