01
入学式。
見つけた彼女の姿に俺はガタッと椅子を揺らした。

「な、んで…アイツが…」

生徒代表の式辞を読む彼女は、無表情。
声も抑揚がなくて、昔とはどこか違う気がした。

「新入生代表、苗字名前」

けど、最後に彼女が読み上げた名前。
間違いなく、アイツだ。

俺はじっと彼女を見つめて、何でここにいるんだと小さく呟いた。

苗字とは同じクラスのようだった。
彼女の周りには数人の女子が群がっていて。
昔からアイツの周りには人が多かったな、と思いながら彼女を見つめた。

人がはけたら話を聞こう…。

少しして彼女が席を立って。
俺はそれを追いかけた。

「苗字っ!!」

彼女はゆっくりと振り返った。

「…五十嵐」
「お前、何でここにいんの?」

俺の問いかけに彼女は眉を寄せる。

「アンタには関係ない」
「た、確かに関係ねぇけど!!ここはお前が来るような学校じゃねぇだろ!?」
「…どうでもいいよ」

彼女の目には光はない。
昔とは違いすぎる瞳に俺は一歩後ずさった。

「私が来るような学校だとか、そうじゃないとか…どーでもいい。私がどこにいようがアンタには関係ない」

苗字はそれだけ言って俺に背中を向けた。

アイツは、誰だ?
俺の知る苗字名前はあんな奴じゃなかった。

「意味わかんねぇ…」

長い彼女の髪が揺れる。
彼女の後ろ姿はどこか苛立って、何も寄せ付けようとしていない。
そんな感じがした。





「クラス委員を決めようと思う」

教師のそんな言葉を聞きながら私は頬杖をついて、視線を逸らす。

「誰かやってくれる人いるか?」

手をあげる人はいない。
よくある光景だ。

「じゃあ、推薦で…」
「苗字さんは?」
「なんか似合うね。代表だったし」

これも、昔からよくある光景。

「苗字か。俺もぴったりだと思うが、どうだ?」

向けられた視線に眉を寄せる。
私は頬杖をついたまま、小さく溜め息をついた。

「すみません。引き受けられません」
「何か理由があるのか?」
「放課後とか朝、忙しくて引き受けても仕事できないので」

そうか残念だな、と言って話は進んでいって。
前の席の五十嵐がこちらを振り返った。

視線を向ければ、視線が絡まる。

「なに」
「やんねぇの?」
「なんで私がやんなきゃいけないわけ?」

五十嵐は眉を寄せる。
昔から感情が顔に出やすいやつ…。

「中学の時よく引き受けてたじゃん」
「別に好きでやってたわけじゃない。私がやる理由はないでしょ」
「確かにねぇけど…」

五十嵐は私をじっと見つめて首を傾げる。

「お前、どうかしたのかよ。なんか変じゃね」
「関係ない」
「またそれかよ」

関係ないでしょ、繰り返しその言葉を吐けば不機嫌そうに前を向いた。
癖のある髪を乱暴にかき混ぜる彼から視線を逸らす。

「別に仲良かったわけじゃないじゃん。ほっといてよ」
「……人が折角心配してやってんのに」
「頼んでない」

五十嵐は小さく舌打ちをした。

「なんだよ、それ。うざ」
「うざくてもなんでもいいよ。ほっといて」
「言われなくてもそうするっつーの」

だったら、最初からそうしてよ。
私は口には出さずにそう言った。

五十嵐はもう振り返ってはこなかった。
けど、苛立ちが背中からも伝わってきて。
それを気づいていないふりをして、目を閉じた。

HRが終わって私は鞄を掴んで、足早に教室を出る。
五十嵐は何か言いたげだったけど話すことはなにもないし。
彼にはなんにも、関係ない。

「…早く、行こう…」

階段を足早に降りて、私は学校を出た。

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