01
入学式。見つけた彼女の姿に俺はガタッと椅子を揺らした。
「な、んで…アイツが…」
生徒代表の式辞を読む彼女は、無表情。
声も抑揚がなくて、昔とはどこか違う気がした。
「新入生代表、苗字名前」
けど、最後に彼女が読み上げた名前。
間違いなく、アイツだ。
俺はじっと彼女を見つめて、何でここにいるんだと小さく呟いた。
苗字とは同じクラスのようだった。
彼女の周りには数人の女子が群がっていて。
昔からアイツの周りには人が多かったな、と思いながら彼女を見つめた。
人がはけたら話を聞こう…。
少しして彼女が席を立って。
俺はそれを追いかけた。
「苗字っ!!」
彼女はゆっくりと振り返った。
「…五十嵐」
「お前、何でここにいんの?」
俺の問いかけに彼女は眉を寄せる。
「アンタには関係ない」
「た、確かに関係ねぇけど!!ここはお前が来るような学校じゃねぇだろ!?」
「…どうでもいいよ」
彼女の目には光はない。
昔とは違いすぎる瞳に俺は一歩後ずさった。
「私が来るような学校だとか、そうじゃないとか…どーでもいい。私がどこにいようがアンタには関係ない」
苗字はそれだけ言って俺に背中を向けた。
アイツは、誰だ?
俺の知る苗字名前はあんな奴じゃなかった。
「意味わかんねぇ…」
長い彼女の髪が揺れる。
彼女の後ろ姿はどこか苛立って、何も寄せ付けようとしていない。
そんな感じがした。
▽
「クラス委員を決めようと思う」
教師のそんな言葉を聞きながら私は頬杖をついて、視線を逸らす。
「誰かやってくれる人いるか?」
手をあげる人はいない。
よくある光景だ。
「じゃあ、推薦で…」
「苗字さんは?」
「なんか似合うね。代表だったし」
これも、昔からよくある光景。
「苗字か。俺もぴったりだと思うが、どうだ?」
向けられた視線に眉を寄せる。
私は頬杖をついたまま、小さく溜め息をついた。
「すみません。引き受けられません」
「何か理由があるのか?」
「放課後とか朝、忙しくて引き受けても仕事できないので」
そうか残念だな、と言って話は進んでいって。
前の席の五十嵐がこちらを振り返った。
視線を向ければ、視線が絡まる。
「なに」
「やんねぇの?」
「なんで私がやんなきゃいけないわけ?」
五十嵐は眉を寄せる。
昔から感情が顔に出やすいやつ…。
「中学の時よく引き受けてたじゃん」
「別に好きでやってたわけじゃない。私がやる理由はないでしょ」
「確かにねぇけど…」
五十嵐は私をじっと見つめて首を傾げる。
「お前、どうかしたのかよ。なんか変じゃね」
「関係ない」
「またそれかよ」
関係ないでしょ、繰り返しその言葉を吐けば不機嫌そうに前を向いた。
癖のある髪を乱暴にかき混ぜる彼から視線を逸らす。
「別に仲良かったわけじゃないじゃん。ほっといてよ」
「……人が折角心配してやってんのに」
「頼んでない」
五十嵐は小さく舌打ちをした。
「なんだよ、それ。うざ」
「うざくてもなんでもいいよ。ほっといて」
「言われなくてもそうするっつーの」
だったら、最初からそうしてよ。
私は口には出さずにそう言った。
五十嵐はもう振り返ってはこなかった。
けど、苛立ちが背中からも伝わってきて。
それを気づいていないふりをして、目を閉じた。
HRが終わって私は鞄を掴んで、足早に教室を出る。
五十嵐は何か言いたげだったけど話すことはなにもないし。
彼にはなんにも、関係ない。
「…早く、行こう…」
階段を足早に降りて、私は学校を出た。
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