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彼女、苗字名前と付き合っていることはい一部の人にはバレてきているらしい。
それもこれもミチロウのせいだが。

「名前」
「あ、おはよう。行太」

まぁこの名前呼びもバレた原因の1つかもしれない。
名前の弟に付き合っていることを告げた日。
なんで、苗字で呼び合うんだと怒られた。

「ちゃんと昨日、夕飯食った?」
「食べたよ。行太がお弁当唐揚げがいいって言うから昨日の私の夕飯は唐揚げだった」
「悪いな」

飯をまともに食わないこいつをどうにかしよう、と弟と話し合った結果俺の弁当を名前が作れば必然的に自分のも作るだろうってことになった。

どこまで心配させれば気がすむんだか…
そう思いながらも、心配するのが嫌な訳でもないから困ったもんだ。

「そういや、試合見に来ねぇ?」
「週末だっけ?」
「そ」

名前は首を傾げてから携帯を見て。

「アイツも外出許可おりるかも」
「あ、マジで?じゃあ一緒に来いよ。お前ひとりとか不安だし」
「どういう意味?」

眉を寄せた名前が俺の脇腹に手刀を入れて。

「いてっ!!子供扱いとかじゃなくて。男子の試合会場なんて男しかいねぇだろ。お前みたいなのは絡まれんの」

わかるか?と尋ねれば不服そうで。

「自分の彼女が他の男に絡まれてたら試合なんて集中できねぇだろ」
「…行太って嫉妬するの?」
「はぁ!?なんでしねぇと思ったんだよ」

俺の言葉に彼女は笑う。

「だって、私は行太のモノでしょ?不安がる必要ないじゃん」
「お前、馬鹿だろ」
「うわ、ひど」

普通にこういうこと言うんだよな、コイツ。
恥ずかしくなって視線を逸らして、小さく息を吐いた。

「…自分のモノだから、他の奴には触らせたくねぇんだよ」
「ありがと」
「笑うな、馬鹿」

言わなきゃよかった。
顔を背けたまま舌打ちをすれば彼女は横でクスクスと笑う。

「いつまで笑ってんだよ!!」
「だって。嬉しいなって」

微笑んだ彼女に髪を乱暴にかき混ぜて。

最近コイツの見せるようになった。表情。
弟に言わせれば恋人の顔、だそうで。
正直、見るたびにこっちの心臓は馬鹿みたいに速くなる。

「…お前、マジで黙れ」
「それが照れ隠しだってことはちゃんとわかってるよ?」
「わかってくていい!!」

彼女の弟は家族を砂の城だと言っていた。
触れたら壊れちまうようなものだと。

けど、今思えばコイツも砂の城みてぇな奴だった。
見た目立派なのに触れれば案外脆く壊れてしまう。

「無理、すんなよ」

ポツリと呟いた言葉。
彼女は目を丸くしてから微笑んだ。

「行太がいるから大丈夫」





「うわーっ!!スッゲェ」

手摺に掴まって弟は身を乗り出してコートを見つめる。
その横顔はキラキラと輝いていた。

「行太さんどこだろ?」
「え?あぁ…あそこ」

指差した先、行太とチームメイトが円陣を組んでいた。

「やっぱ、かっけぇ」
「そうだね」

円陣がバラけて、試合が始まるようだった。
スターターの彼がコートに入ろうとして、足を止めた。

そして顔を上げてぐるりと周りを見渡す。
こちらを見た彼が笑って、拳を突き上げた。
それを真似して拳を突き上げれば満足そうに笑って、コートに入っていく。

「ちゃんと姉ちゃんのこと気付いたな」
「そりゃ、恋人だもの」
「妬けるなー」

頬を膨らませた弟の頭を撫でて笑う。

「どれだけ行太が好きでも、私の弟は一人だよ」
「…おう」

行太は周りの先輩にどやされて、少しだけ頬を赤く染めていた。

試合が始まって、彼の応援をしていれば肩を叩かれて。
そちらを向けば女バスのキャプテンがいた。

正直、会いたくなかった。
あんなことを言って、あんなことを言われて…

「…ごめん」
「え?」
「貴女のことなんも、考えてなかった」

彼女は私の隣にいる弟に視線を向ける。

「…そりゃ、バスケより大事だよね」
「…はい」

ごめん、と彼女は頭を下げて。

「けど、やっぱ…私は貴女が欲しい。…気が向いたら、いつでも来て」
「はい。ありがとうございます」

それだけだから、と帰ろうとした彼女が足を止めて振り返った。

「付き合い始めたの?アイツと」

指差した先にいたのは行太だった。

「はい」
「お似合いだと思うよ」
「え?あ、ありがとうございます」

彼女はそれだけ言って、集団に戻っていく。

「姉ちゃん、知り合い?」
「うん、一応」

コートに視線を戻せば行太がシュートを決めていた。

やっぱり彼のプレーは目がそらせなくなる。
結われた髪が揺れて、真剣な横顔が見える。

君は…ずっと私の特別だ。
初めて出会った日から、君は私を惹き付けてやまなかった。

「行太ーーーッ!!」

彼の名前を叫べば、行太は視線をこちらに向けて笑って。

「勝ってよ、絶対に」
「当然だろ」

君のその得意気な笑顔が私は好きだ。
君のそのプレーが好きだを
君の真っ直ぐな目が、凛とした背中が。
少し意地悪で、口が悪くて、我儘で。
なのに、私を誰よりも理解して受け止めてくれる君が…
私は大好きだ。

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